Noism「春の祭典」

Noism「春の祭典
オリンピック開会式とデモで揺れる東京で金森穣版「春の祭典」が初演された。サナトリウムの様な空間に椅子が一列に並べられている。アルトーカントールに通じるような20世紀現代劇的な演出だ。重々しい雰囲気のダンサーたちが現れると、抑圧からの解放を求める世界が始まり、やがて有名なこの曲が流れだす。彼ら彼女たちのメイクと衣装が見事だ。振付がカオスとカタルシスを導いていく。
ニューノーマルな社会生活が叫ばれる中、格差問題や政治の動向から社会的に不安が立ち込めている。移住をしても、首都圏に残留しても、オンラインでも、対面でも、その選択の方向と意義が問われ、バレエ芸術もまたその最中にある。この時局下において抑圧と解放というモチーフに興奮した客たちは飛沫防止のために歓声を一切上げることはできない。その代わり多くの観客がスタンディングオベーションで応えていたのは、興味深い現象だ。
上演の成功は美術や空間を通じた演出による支えもあるが、民衆の心情を代理表象したような踊り手たちの熱演である。目の前の世界的イベントとデモの背景にみいだそうとしている解放を本作の向こうに見たからではないだろうか。このタイミングでみる事ができ嬉しい。決定打といえるような上演であった。
(7月25円、埼玉県 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール)
加藤 みや子、羽月 雅人、他17人