十世宗家・西川扇蔵先生の思い出

十世宗家・西川扇蔵先生の思い出はいろいろあります。まだ書き始めた最初のに先輩の評論家の石川健次郎先生から”若いのをよろしくお願いします”ということでご紹介をしていただいたときに、扇蔵先生は「お前、変なことを書いたらこうだからな」とおっしゃりながら棒でつつくような所作されて、その場の一同を沸かせたことは印象深く覚えています。きりりと二枚目でありながら、ユーモラスな先生でした。素踊りが得意で、松の内が明けてしばらくしてから、経団連会館で日本酒をいただきながら扇蔵先生のお祝儀舞踊をみることが多かったことも忘れられません。文字通り昭和の日本舞踊界の大きな存在の一人でした。扇蔵先生がいなくなって数日後に日本舞踊が無形文化財になりました。昭和・平成・令和を生きた大舞踊家とのお別れは本当に寂しいものです。ここにお悔やみを申し上げます。