「Laban Transitions Dance Company 2009 Tour」

「Laban Transitions Dance Company 2009 Tour」   
吉田悠樹
 玉川学園は石井漠を招くなど戦前から舞踊教育に熱心な学校として知られている。戦後も演劇や舞踊に力を入れてきた。イギリスのラバンセンターとも交流を重ねてきた。今回はTransitions Dance Company 2009 の一環としてこのカンパニーが来日し公演を行った。
最初に上演された台湾のアーティストCheng Tsung-Lungによる『RADIX』はこのセンターに学んだことがわかるモダン・ベースのコンテンポラリーダンスだ。名曲「春の祭典」とともに繰り広げる作品のムーブメントや構成はシャープなものだ。日本の叙情的な持ち味のあるモダン・コンテンポラリーの若手作品とは異なっている。ラインになって並んだり、手を掲げて重なり合ったりするシーンそれぞれを見ても日本で形成をされた現代舞踊の表現に多く見られるように情感を重視するというのではなく、肉体を通じた多様な造形感覚ともいうべき姿勢をみることができる。その意識には若き日に建築家を志した事もあるラバンの思想に通じるものも感じる。
二作目のCristian Duarteはブラジル出身の才能だ。『IT'S SO GOOD』と題された作品は人間の性をモチーフとしている。従ってセクシーな表現が強調されている場面も多い。ダンサーたちが足を踏み出して前に無作法に歩いたり、生理的な運動や大らかに内面感情を歌い上げるような肉体表現が繰り広げられる。新しい芸術表現の創出をテーマとしている作品だが、全体として提案やメッセージ性も欲しい作品だ。デボラ・コルカーなど南米のコンテンポラリーダンスに通じる明るさと荒削りでも意欲的にオリジナリティを動きから切だそうとする姿勢は印象的だ。この芸術家の出自とも重なるものがあるだろう。
三作目はフランスのコンテンポラリーダンスを代表する才能の一人、ダニエル・ラリューによる作品だ。『COME AND HELP ME MAKE A FOREST』は肉体の評王や動きの面白さを楽しむことができる作品だ。フランスのコンテンポラリーダンスは日本の舞踏が現地で受容されるのが解るような面白い動きを楽しむような作品、いわば造形的なムーブメントが特色といえるような作品が多い。日本のモダン・コンテンポラリーにみることが出来るような、完成度の高い流麗な動きというよりは肉体の動きやその美しさを感じさせる作風が印象的だ。ラリューのこの作品もそういった傾向を楽しむことができる作品といえる。群舞展開を見ても動きの面白さを楽しむことができる。フランスのコンテンポラリーダンスの代表作家の作品がこのようにイギリスのラバンセンターのダンサーたちという文脈で展開しているということも興味深い。
 玉川学園の舞踊教育の伝統は長く、創立当初から石井漠が直接間接に指導し、小林宗作の弟子がリトミックも教えた。岡田陽・純子はこのラバンセンターで学び日本の演劇・舞踊に大きく貢献した。児童舞踊から大人のダンスまで幅広く取り組んでおり数多くの才能を送りだしている。近年では玉川さやか・みなみ姉妹や黒田育世、モダン・コンテンポラリーの新人である船木こころが代表的な存在として上げることができる。会場となったスタジオもこのようなカンパニーを招聘し作品上演できるような整った環境だ。日本の舞踊教育の一つのフロンティアがここにある。
(七月四日 玉川学園大学三号館 演劇スタジオ)