新国立劇場バレエ研修所 第4期生発表会

 新国立劇場バレエ研修所の発表会は今年で4期生になった。私は批評活動をはじめる前後に第1回をみているのだが、残念ながらその時のメモは現在起動できないハードディスクの中に埋もれてしまっているので出すことはできない。改めてあれから時間がさらに経ったのだということを感じながら新国立劇場に足を運んだ。
 これまでの公開レッスンや発表会を全て見れているわけではないのだが、研修所を経て活躍をしている作家たちの中で第1期生から第3期生まであちこちで見ている。第1期生の伊藤友季子やさいとう美帆、本島美和(http://www.miwamotojima.com/miwamotojima/)が活躍する姿はその全てを見ていないのだが印象に残っているし、第2期生の中では八幡顕光が男性ダンサーとして舞台でみていて気になる存在だ。第3期生の大湊由美と小野絢子のこれからの活躍にも周囲の関係者の期待が高まっている。バレエ界の近未来が様々な形で論じられつつあるため(http://d.hatena.ne.jp/yukihikoyoshida/20080221 )彼ら彼女たちのこれからが楽しみだ。日本の舞台芸術ではそんなに未来論が展開することはないが、こと文化の文脈を離れて政治経済に視野をうつすと、大体2020年ぐらいの近未来予測が始まっている。大学では2025年が次世代の教育環境の目標として語られるようになってきた。政治経済で実際に現場にいる関係者も同じぐらい先のことも考えているのだろう。
 現代舞踊ではすでに次世代の作家たちが少しづつ出てこようとしている。今のコンクールで活躍をしている20代前半の作家たちが30前後になるのが2010年代、40前後になるのが2020年前後とするのであれば、作品に対する思考や評価軸も少しづつさらに新しい新世紀の潮流の中にシフトしていくが重要になる。舞踊批評の側では批評を展開していくメディア環境が、出版、放送といった最後のアナログメディア、マスメディアの時代から解放され、80年代初頭にはスチュワート・ブラントやニコラス・ネグロポンテが提唱していたインタラクティヴでフルデジタルなメディア環境にシフトをし終えてきているのだから、さらなる変動がこれから始まろうとしている。いうまでもなく、ボトルネックになるのはコンテンツに対する課金や著作権制度の現実的な問題で、これらの問題はすでに関係者が問題解決案を提示しだしているのだから、ドラスティックに変化がする瞬間がそろそろ訪れようとしている。舞踊評はライブコーディングではないがライブライティングになってきているしモバイル端末で読まれる時代なのだ。電子メディアの市場原理が舞踊界のと結びつきだしもうデファクト・スタンダードになってきている。
 バレエの表現そのものが次第に変化をしていくことはいうまでもないが、バレエを支援する基盤もバレエを取り巻く環境もさらに変化を続けていくことになるだろう。


新国立劇場バレエ研修所第4期生発表会

 今年の研修所発表会では踊りとまっすぐに取り組む踊り手たちの姿勢を感じ取ることができた。「『ジゼル』より村娘のパ・ド・デゥ」ではすらりとして背丈のある益田裕子が助演の福田圭吾と共に踊った。益田は明るい表情が印象的な踊り手で経験を重ねることで優れたアーティストになる可能性がある踊り手であるように思う。作品そのものを解釈しながら上手くまとめていたように思う。「『せむしの仔馬』より 海と真珠」を踊ったのは間辺朋美だ。間辺はコンテポラリーやスパニッシュでも才能を発揮する表現者としての素養を秘めた踊り手だが、この作品では溌溂とした若さを活かして官能的な表現をみせていた。「『海賊』より オダリスクの踊り」を踊ったのは加藤朋子、丸澤芙由子、山田蘭だ。加藤は演技力で才能を発揮するタイプであり、朗らかな丸澤はキャラクターが印象的なバレリーナといえまいか。山田は端正な容姿と優れた条件が印象的だが間辺同様にアーティストとして他ジャンルでも活動できるような横顔があるように感じた。グノーの楽曲を用いた牧阿佐美による「『シンフォニエッタ』より第一楽章」では白い踊り手たちが燦然と踊ったが、そんな丸澤と山田が踊る姿が特に印象的だった。
 コンテンポラリー・ダンスアキコ・カンダによる「白のコンチェルト」という作品だ。10ヶ月と時間が限られている中だったのだが、バレエダンサーが得意とするリズミカルな表現や身体性を活かした作品だった。カンダのグラハム・メソッドのみならず、他の作家のコンテンポラリー・ダンスにも接していくことを念頭に置きながら作品や養成プログラムが作られているのだろう。グラハムのテイスト、特にバランシンがニューヨークで活動をはじめた頃と同時代にあたる戦前のグラハムの持っていた鋭くシャープなトーンに迫れることができればと思いながらみていたのだが、それでも若き作家たちは健闘をしていたと思う。特に間辺はモダンダンスならではの実存的な表現をかもしだし、石井小浪の下でダンスをはじめ戦後にグラハムの元で活躍したカンダの作風の香りを感じさせる味わい深い踊りをみせていた。スパニッシュダンスではアクシデントで他の作品に出れなかった中村菜穂も出演しフラメンコで良く踊られる小島章司の指導で「Fandangos y Alegrias」が披露された。このような表現で表現者としての素質を感じさせる山田、明るく朗らかな丸澤らが活躍をみせた。
 まだまだこれからの若者たちだが、それを送り出す側も企画や内容で工夫を重ねていることを感じる取ることができ、これからが楽しみであるように思う。
新国立劇場 中劇場)