今月のダンサー:08年2月 米沢麻佑子さん

(C)米沢麻佑子

 米沢麻佑子という若手作家がいる。コンクールで活躍をしてきた作家としてすでに定評のあるアーティストだが、昨年秋にニューヨークでの在外研修後に発表した作品をみてかつての作風を抜けきったフレッシュなトーンに驚かされた。作家は現代舞踊のコンクールでは大きく活躍をみせている黒沢・下田モダンバレエ・スタジオ出身だ。近年、このグループで活躍をしているのは、黒沢美香&ダンサーズ出身のピンクの磯島未来、加藤若菜、須加めぐみの3人組である。(http://blog.livedoor.jp/welovepink/archives/50813561.html)この3人の踊り方はそれぞれ違うが、黒沢輝夫=黒沢美香ならではの切れ味のある間合いをいかした踊り方(http://d.hatena.ne.jp/yukihikoyoshida/20070725)を得意としているのは事実だ。須加は先日の横浜ダンスコレクションR(http://www.yokohama-dance-collection-r.jp/)で完全にその踊り方を脱したコンセプチャルな作風を見せていたのが印象深い。一方、下田栄子ならではの磨かれた美意識と美しい踊り方(例えば下の作品「蒔絵」にみることができる作風)を得意としていたのが米沢であった。2005年の東京新聞現代舞踊1部ではコンテンポラリーダンスでも知られている昆野まり子や高瀬譜希子と共に活躍をみせ1位に入っている。黒沢輝夫はいうまでもなく戦後の石井漠舞踊団の男性の側のトップダンサーの一人だが、下田栄子の作風は東北出身で石井漠舞踊団で戦前から戦後にかけて活躍した女性名ダンサーの和井内恭子のスタイルを継承しているといわれることがある。明確なルーツを持つ踊りもみせることができるが、コンテンポラリーダンスとしても興味深い作品を発表する作家だ。ピンクの3人ともまた異なった作風を持っている作家であるため、コンテンポラリーダンスのファンもチェックをしてみると良いだろう。
 最近ではバレエの瀬島五月(http://ssatsuki.hp.infoseek.co.jp/)、北海道の作家の渡部倫子や前澤亜衣子・乾直樹(http://d.hatena.ne.jp/yukihikoyoshida/20070603)らとも活動をしているようだ。これからの楽しみな才能の一人ということができるだろう。コンテンポラリーダンスからバレエまで幅の広い層に訴えかけるアーティストであるように思う。インタビューをお願いしてみたところ引き受けてくださり感謝をしている次第である。

過去のコンクール作品:(下のヨコハマコンペティションで発表した作品とはまた異なる作風である意味で和井内=下田の踊り方をみることができる作品たちともいえる)
「蒔絵」(2005)
http://www.kk-video.co.jp/concours/tokyo2005_kessen/gen1.html

「八月の綺想曲」(2001)
http://www.kk-video.co.jp/concours/tokyo2001/genjr-result.html


Q1 先日はヨコハマコンペティションで新作を発表されていましたが、在外研修中はいかがでしたか?


 昨年1年間NYで研修をさせていただきました.研修では、モダンダンスを中心に、バレエクラス、ピラティスやヨガのクラスを受け、基礎をもう一度学び直し、より柔軟で強い体づくりに励みました。この研修を通して、自分の踊り、体、ムーブメント等について深く考え、表現体である自分の体と向きあう良いきっかけになりました。
 研修中、舞台に立つ機会にも恵まれ、ショーケースで3つの自作作品を発表し,ドイツ人振付家の方の作品に出演することができました。様々なショーケースに出演できたこと、外国人ダンサーと同じ舞台に立つことができたことで、今後の自分自身の成長に繋がるものがあったと考えます。一つの舞台から学ぶことが非常に多く、自分の理想とする表現に近づけるにはどのように練習を積んだら良いかを考えさせられました。

 ヨコハマコンペティションでは,「being」という作品をつくりました.(http://www.kk-video.co.jp/concours/yokohama2007/sousaku.html)リミットのある時間の中でいかに生きるか.どう過ごすか.などをテーマにしたもので,研修中私自身が1年間というリミットのある生活を送ったことから生まれた作品でした.
 帰国後1ヶ月もなく本番を迎えた為,まだまだやりたいことがたくさんあったので,作品のリメイクも考え中です・・・


Q2 昔からコンクールで活躍されていましたが、下田栄子先生から学んだことはありますか?


 下田栄子先生からは、本当に多くのことを学びました。コンクールの指導では,常に真剣に向き合ってくださり,技術的な面はもちろんですが、踊りのつなぎ,間や呼吸について等あらゆることを教えてくださり,踊りの表面的なものだけではなく,内面的なものも多く学びました.
指導の場面では時に厳しくもありますが,優しく温かい先生であり,本当に尊敬しています.
 踊ることの喜び、厳しさ、楽しさを教えて下さったのは下田先生であり、下田先生とのこれまでの経験が今の私自身を支えているのだと思います.


Q3 米沢さんは石井漠や和井内恭子さんを輩出した秋田出身ですが何か感じることはありますか?吉沢蔓さんのところで学ばれたようですね?



 日本のモダンダンスのパイオニアである石井漠さんと同じ出身だということを非常に光栄に思います.数年前、石井漠さんの地元である秋田県山本町で行われた石井漠没後40周年記念の公演に参加させて頂きました.石井漠さんの作品は今見ても新しさを感じるような気がします.
吉沢蔦先生には,3歳から10歳まで指導して頂ました.ダンスの楽しさを一番初めに教えてくださった先生です.


Q4 大学時代は平山素子さんに習ったようですがいかがでしたか?


 大学で平山素子先生(http://www.motokohirayama.com/)にお会いできたことは、私のダンス感を変える大きな出来事でした.
ダンスに対するひたむきな思い.プロダンサーとしてどうあるべきか等,身をもって教えてくださる偉大な方です。現在も筑波大学の大学院でバレエ等の実技レッスンや,授業等,様々な場面でお世話になっております.
 平山素子先生は私の憧れの方です.ダンサーとしてだけでなく、人間的にもものすごく魅力的な方であり、目標とすべき方です.


Q5 この春には北海道で開催される「櫻の園」瀬島五月さんや渡部倫子さんと一緒に踊る会があるのですよね。活動に幅が出てきたようですね。


 はい.瀬島五月さん(http://ssatsuki.hp.infoseek.co.jp/)や渡部倫子さん(北海道で活動をしている作家)のような方とご一緒できて本当に光栄です.特に瀬島さんのようなバレエの方とご一緒する機会はめったにないので,この舞台を通して何か学ぶことができたらと思います.この舞台ではインプロがベースとなるのですが,このメンバーでどのような科学反応が起こるか今から楽しみです.渡部さんとは,五月の祭典でもご一緒させて頂きます.

参考:4月26日開催「櫻の園〜成熟するwork 生まれ出るwork〜」 北海道ポルトホール http://blogs.yahoo.co.jp/natuo1224/34370.html


Q6 これからどんな作品を発表し活動をしていきたいですか?


 おかげさまで今年は作品を発表する機会に恵まれているので、その都度作品をとことん追求していけたらと思います.自分らしさを忘れずに,一つずつの舞台を大切にしていきたいと思います.


プロフィール 米沢麻佑子


3歳よりモダンダンスを始め,12歳より黒沢輝夫・下田栄子に師事.
2000年ヨコハマコンペティション第1位.第57〜59回東京新聞主催全国舞踊コンクール現代舞踊ジュニア部第1位,文部科学大臣奨励賞受賞.第62回同コンクール現代舞踊シニア部第1位受賞.
平成15年度文化庁新進芸術家国内研修員.平成18年度文化庁新進芸術家在外研修員としてNYにて一年間研修を行う.研修中NYにおいて様々なショーケースに出演.
筑波大学卒.現在筑波大学大学院修士課程体育研究科舞踊コース在学中


公演スケジュール


・2008年3月8日 「ダンスプラン2008」 新宿スペースゼロ
・2008年3月22日 「筑波大学ダンス部リサイタル」 シアター1010
・2008年3月25日、26日 「ピンク祭り〜謝肉祭〜」 駒場アゴラ劇場
・2008年4月26日 「櫻の園〜成熟するwork 生まれ出るwork〜」 北海道ポルトホール
・2008年5月4日 「Dance express」 つくばカピオホール
・2008年5月7日 「5月の祭典」シアター1010
・2008年5月29〜31日 「piece of modernパフォーマンス」
に出演します。


写真:(C)Todd Calole