ネオ・クラシック、コンテンポラリーそしてモダン

 今年のNBA全国バレエコンクールのコンテンポラリー部門の結果(http://www.kk-video.co.jp/concours/nba2008/contemporary.html)を見ている。今年はモダンのコンクールで活躍している作家たちが結構入っている。1位の新保恵や小林明日香は金井桃江の下で学んだ作家たちだ。コンクールでは身体性の高さを活かした作品を披露するが、彼女たちは実は韓国の民族舞踊も所属研究所のカリキュラムのためか上手に踊れたりする。コンテンポラリー部門でモダンでも活躍中の作家たちが優れた成績を出しているのは嬉しいことだ。一方、バレエらしい作品で心地が良いのが山本教子バレエスタジオの後田恵だ。
 バレリーナはクラシックを究めるタイプが多いが、私は酒井はなや橘るみ(http://homepage2.nifty.com/rumi0308/)、志賀育惠(http://www.ikue-garden.net/)のようにいわゆるクラシックのみならずいわゆるネオ・クラシック、広義にモダン、コンテンポラリーを踊ることができるバレリーナが好きだったりする。ネオ・クラシックとコンテンポラリー、モダンのそれぞれの概念の定義、統辞法については指導者や書き手それぞれによって意見があるが、こうべ全国洋舞コンクールのモダン部門で竹中優花や瀬島五月といったバレエ出身のダンサーたちが例年活躍しているのも興味深く思い、また評価したく思っている。先日の新国立劇場で行われた研修所の発表会でもアキコカンダが振付けていた。*1このコンクールのモダン部門で昨年1位に入った所夏海がモダンのみならずバレエ関係者からも評価を確立しつつあるのも興味深い現象だ。*2
 ちなみに今年のNBA全国バレエコンクールのクラシック、シニアの部(http://www.kk-video.co.jp/concours/nba2008/senior.html)も興味深い演技が多かった。1位の曽根原彩納は中部地方でも定評のある長野バレエ(http://www.naganoballet.co.jp/)出身のバレリーナだがその卓越した技術と表現力は評価が高かった。2位の若生愛はこの映像でみるのが最初だがこれからが楽しみだ。時折見ていて名前に覚えがある法村珠里、平尾麻実も健闘をしたようだ。法村は普段関西で活躍しているためあまり東京で見ることができないが、法村友井バレエ団(http://www.homuratomoi.com/)出身だ。このグループからは入賞者で横田明日香も入っている。一方、平尾は東京の北区にあるマンナバレエ出身。法村も平尾も時間をかけながら応援したい作家である。
 昨今のバレエに関するメディアではどうしてもバレエからみたコンテンポラリーダンスが強いが、私はモダンとバレエがともに競い合って発展すべきだと思っている。*3薄井憲二も現代ではバレエとモダンダンス、コンテンポラリーダンスの間には敷居が存在しない時代と語っている。バレエとモダン、ネオ・クラシック、そしてコンテンポラリーの境界線はいつ考えてみても興味がつきないところだ。

*1:http://d.hatena.ne.jp/yukihikoyoshida/20080224

*2:バレエでは「今現在のシーンの中で優れた4人のバレリーナたちで”パ・デゥ・カトル”を踊るとすれば」といったことが語られることがあるが、優れた4人のモダン=コンテンポラリーの踊り手たちを選ぶとすれば、私は横田佳奈子、所夏海、池田美佳、そして先シーズン後半はあまり踊れなかったのが残念なのだがジュニア時代から”コンクールの女王”と呼ばれてきた蛯子奈緒美の4人を選ぶだろう。横田は笠井叡のグループと活動を展開している。2007年度はもうコンクールに出なくなったため大きな活躍がなかったのだが、大きな社会的な評価の指標(コンクールでの入賞など)がなくてもトップクラスの演技をみせていた。昨年の私の年間総評では若手・中堅作家で4位に入っているが、この順位は1位から3位が社会的な評価の指標として皆コンクールで1位を持っているということと比べてみればという意味合いで、決して横田の踊りが彼らにひけをとるものではないということをここに明記しておこう。むしろ何もなくてもこれだけのハイスコアがでるということが横田を論じる上では重要なのだ。そして蛯子はピエール・ダルドの作品で水準の高い演技を見せている。この4人はバレエからみても評価を受けるはずだ。しかしモダン=コンテンポラリーならではの表現で魅せるアーティストもいるわけで海保文江や小林泉などはこのジャンルならではの屈指の踊り手たちといえるだろう。

*3:現代日本では蘆原英了のようにバレエのみを重視する批評家が多いが、光吉夏弥は1950年代にすでにそのような見識をもっている。詳しくは吉田悠樹彦,「現代舞踊協会 現代舞踊公演2008」(音楽舞踊新聞,音楽新聞社 2008/3/11)を参照のこと