初期型 ゲネプロ

スペイン国立バレエ団の評がDance-Squareで出た。
http://www.dance-square.jp/ebbr.html

午後に行われた初期型のゲネプロを見にいく。



初期型公演 「MELEE」(ゲネプロ)

 初期型の2回目の公演が行われた。初期型といえば、深見章代とカワムラアツノリの二人組という印象がdie Pratzeダンスがみたい!新人シリーズからあった。本公演を見るのは初めてだったのだが、これまで二人とも小品を見ることが多かったのだが、確かな『作品性』が彼らの作風から立ち上がってきていることを感じた。
 深見はヌーヴェル・ダンスの旗手の1人、ジャン=クロード・ガロッタが関心を持ったこともある踊り手であり、主にモダン=コンテンポラリーで活躍をしていた時代から定評のあるキャリアのあるアーティストの一人だ。一方、カワムラはパフォーマティヴでスリリングなアクションを楽しむことが出来る作家として長年活動をしてきている。イマージュ・オペラの野沢英代やボヴェ太郎のように「モダンダンス的」や「現代舞踊的」といった文化的ステレオタイプに一見適合しないようにみえるテクニック以前の原初的な動きでストイックな動きを展開する作家たちがバレエやコンテンポラリー・ダンスを見る批評家たち(Ex.門行人など)から評価をされるケースがあるが、バレエ出身の瀬島五月や竹中優花(共に貞松・浜田バレエ団)がコンクールでネオクラシックともいえるコンテンポラリーな作品を踊ってかなりの手ごたえのある表現を打ちだしてくるのを見ると、モダン=コンテンポラリーから出てきた深見とカワムラの二人が面白い活動をしていることも興味深く思う。
 タイトルは”乱闘”や”混乱”といった意味の言葉だ。舞台にスクエア上にリングが書かれている。冒頭からデスメタルが鳴り響き、踊り手たちは身を揺らし始め、ダンスバトルがはじまる。スポーティーでFuture Punkなファッションに身を包んだ踊り手たちが一同に並ぶ。と思うとリリカルに男女が愛し合うようなシーンや、はたまた純朴に朗読をする男を女たちが口々に「ジェンダー!」と叫びながら蹴りをいれていくシーンが繰り広げられる。するとマゾヒストのMr.Mが登場し、観客にゴム紐の端を持たせる。男が舞台中央にいくと客はゴムを指から外す。ビターン!と激しい音をたててゴムが顔の中央に見事に命中―客席は笑いが渦巻く。レザーでフェティッシュなファッションに身を包んだ半裸の男性は三島由紀夫細江英公による「薔薇刑」やロバート・メイプルソープの写真のようなゲイカルチャー的なマッチョさも漂っていたのだが、男臭さもこの騒がしい世間ではバチンと響く大きな音と共に女たちの「ジェンダー!」の一撃の向こうへナヨナヨと消えていくといったところだろう。
 一連の毒のあるユーモアはカワムラによるものだろうが、コンドルズや広崎うらん、森下真樹の表現がオタクっぽくヒネリにひねって、もうなんだか笑いのツボがわからなくなっていくのとは対照的に、彼らの舞台では笑いをすんなりと受け取ることができる。一概にダンス作家は言葉ではなく視覚的な表現が中心になるのだが、あまりにひねると、広崎のように、平山素子をはじめとするトップダンサーたちがのりにのって熱演しているし、見ている側もそのコードを共有しているごく一部の客たちは受けに受けるが、その一方で別の客たちは全く入れない世界になる。すなわち笑いのコードが解るか、解らないかという跳躍こそが重要になってくのだ。このような現象は余りにクドイと台詞がないヴィジュアルなダンス表現では笑いはユーモラスでもなんでもなくなるのだが、カワムラの笑いは見ていて素朴に笑えて実に心地よい。
 コンクールでは澄ましてポストモダン調の作品を踊る畦地亜耶加( http://www.kk-video.co.jp/concours/saitama2007/modern_adult.html )が猟奇小説を朗読すると天上から肉体がばらばらと降ってくる。やがて女が美形の男を脱がしはじめ、一枚
服を剥いではにやけて、また一枚剥いではとにやけるシーンに観客たちは(ゲネプロだったのだが)笑い転げる。全裸になった男が物陰に隠れてでてくると、ぞろぞろと男たちが、片手で隣の野郎のペニスを隠しあうというポーズで登場する。逆モヒカン+ソリのカワムラ、舞踏家、イケメンダンサー、横一列にいならぶ野郎の全裸に不調和と調和がきしみあう。彼らはそのままのポーズでリズミカルにエアロビのような動きを繰り広げる。女たちも舞台上方に登場しのりのりで美しい背中を披露する。
 90年代はヌーヴェルヴァーグをパロディにしたPizzicato FiveやGroovisonsが一世を風靡した。2000年代になるころになるとお洒落なMondo Grossoが出てくる。そんなコンテクストをふと思い起こさせるような、ワイルドでヴィジュアルな面々が描く”混乱”はシニカルで若干ホラーで実に心地ヨカった。

(麻布 die Pratze)