舞踊華扇会(夜の部)

報知新聞主催 第55回 舞踊華扇会(夜の部)

スケジュールの関係上開演に間に合わず、2曲目の花柳瀧二、花柳萠亜「筝曲 葵の上」から最後まで見た。花柳寿南海「清元 山姥」を見るのは2回目か3回目だ。寿南海の得意な演目といえる。小柄な踊り手が見事に表情を使い分けながら踊る姿はいつみても味わい深い。みずみずしく力強い演技だ。最も印象的だったのは花柳寿美、花柳奈々寿美が踊った「大和楽 早春」だ。振付の花柳宗岳が堂本印象の絵画を見てえたインスピレーションに基づき、昭和49年に宗岳主催の「曙会」で上演された作品だ。桃色に花を抽象化したような水玉模様の布が舞台いっぱいに広げられ、その前で一つ傘の下の二人の踊り手たちが踊る。愛らしく女性らしさを大切にした振りで自然な動きの間合いを感じる艶やかな作品だ。日本舞踊というと江戸のようなイメージがどうしてもあるが、黒船がセノグラフィーに登場する作品もある。花柳衛彦「新内 お吉哀話」では黒船を背後に下田の「唐人お吉」の物語が描かれる。ハリスとの別れの後に、自分を使い捨てのようにしたお上の冷遇を非難する衛彦の台詞は妙にリアリティがある。現代舞踊でも時折作品化されるモチーフなだけあり関心深く見ることができた。晩秋から秋口へという季節を感じさせたのは岩井知美「清元 雁金」だ。河竹黙阿彌作詞、二代目清元梅吉作曲で明治14年に東京新富座で初演された作品だ。文明開化以後に上演された作品だが、まだ江戸の空気が良く伝わってくる。虫が鳴き声が鳴り響く中、団扇を片手に女が踊った。最後はとても豪華な演出の藤陰静樹「新作 義太夫 春霞園生踊」とコミカルな藤間仁章、藤間仁凰「たぬき」がそれぞれ観客の心をつかんだようだ。


国立劇場大劇場)