神保町→銀座

東京新聞 平成20年舞踊芸術賞、平成20年中川鋭之助賞、第65回全国舞踊コンクール特別賞表彰式

 今年の舞踊芸術賞は邦舞は花柳寿美(三代目)、洋舞は若松美黄だった。花柳寿美は授賞式では戦後の何もない時代に活動をしていた日々、初代吾妻徳穂に女振りを習ったこと、50年代のアメリカに行ったなどを回想していた。パートナーはなんとバレエの服部智恵子の息子とのこと。昨年の大作「楊貴妃輪光」や近年の活動が評価された。一方、若松美黄は近年のコンテンポラリーダンスがコンセプチャルであることを指摘しながら自身が提唱するコンセプト”自由ダンス”にも通じる『ダンシングする現代舞踊』について論じた。今年から現代舞踊協会の理事長に就任し、活躍に期待がかかる存在である。
 そして今年の中川鋭之助賞は斉藤拓だ。私も「ラ・バヤデール」で見てその演技に感動したが、旬でありながら期待できる男性ダンサーの1人である。
 コンクールの各部門で活躍した舞踊家たち、その指導者たちもその活動の成果を表彰され会場は盛り上がりをみせていた。
如水会館


 今日は松山バレエ団芸術奨励賞の授賞式が同じ日取りで午後の遅い時間からということもあり、さらにそちらに移動する関係者が多かった。しかし、私は夜は銀座で舞台を見るので休憩をとっていた。


日本舞踊協会主催 創作舞踊劇場 第25回記念公演「欲望という名の電車
 今年の創作舞踊劇場はなんと「欲望という名の電車」である。日本舞踊でどのように実現するのか話題になっていたのだが、いわゆる日本舞踊の創作とは一味違う現代舞踊や現代演劇に通じる作品となっていた。なんとこの作品は現在の花柳壽輔が半世紀前に見た、あのスラヴェンスカ・フランクリン・バレエ団公演「欲望という名の電車」(1953)にインスパイアされた作品である。ダニロワが出演したことでも知られる公演だ。半世紀の時間が流れているがこの作品から得た感動を想起させるように移動する鏡(フランクリンの方はドア)を用いて日本舞踊の踊り手たちが、現代舞踊の若手たちのように普通にダンシングをする。二村周作の舞台美術が見事で、新舞踊運動のころを想わせるような大正・昭和初期の街並みを立体的に作り上げている。そんなセットの中で、ダンサーたちが日本舞踊にとらわれず洋舞の踊り手たちのようにダンシングするわけだからラバンに学んだ楳茂都陸平のような効果が生まれきている。今日では西川箕乃助はラバンセンターで学んだことがあるわけだし、踊っている若手舞踊家たちは圧倒的に現代文化の影響にあるわけだからその姿は21世紀の今日を体現しているということができるだろう。日本舞踊ならではの表現は演技の中で見ることができたがジャンルの枠組みにとらわれない自由な作風である。特にこの分野は現代性という意味合いでグローバリゼーションと情報化の最中にある日本社会と向かいあい、その優れた伝統をどのように見せるかという見せ方が問われているジャンルということができる。故にこのような試みの方向性は興味深い。今日は主役の女性は昼間の東京新聞でも表彰されていた寿美だった。初代寿美が活躍した新舞踊運動の時代から半世紀以上過ぎているが、コンテンポラリーダンスの現代の中で表現を模索する彼らの姿をみることができた。
 第二部は「青春」をタイトルに代表的な日本舞踊のそれぞれの世代を代表する六作家たちが作品を発表した。日本舞踊というとどうしても年配の踊り手が古典を踊るというイメージが強いが、バレエの前田新奈と活動をする事もある藤蔭静寿をはじめ若い踊り手たちの活躍が目立った。特に盆踊りのような芸能と日本舞踊の接点を感じさせるポピュラーな演出で盛り上げていた。洋舞と異なる彼らがつちかってきた照明や演出の技法もまた独特で学ぶものが多い。優れた若いダンサーたちが多いので洋舞のファンも時折チェックをしてみるといいジャンルである。
 いろいろ論議を呼んだが寿美がヒロインを演じた昨年秋の「新曲『浦島』」の全幕初演に接して以来、日本舞踊は私にとってはアクチャルなジャンルである。
(ル テアトル銀座)