10年代のダンス:はじめに・Asian New Wave

 不況下の昨今ですが、10年前と舞踊界は大きく変わってきています。バブルからバブル絶頂の時は社会に利益を還元しようという会社も数多くあったのは事実です。豊かな時代の中でダンス・バレエはブームを向かえ市場は拡大したように見えました。
 21世紀を迎えたばかりの年に残念なことに911のテロが起こり20世紀という枠組みでは予期できない新しい時代になってきました。戦争から内なる戦争、テロリズムということが言われだしたのもこの頃からです。10年前は90年代から2000年代へという流れを汲みながらコンテンポラリーダンス、バレエが大きく盛んな時代でした。バブルが崩壊したとはいえ、豊かな時代の残照の中でシーンは展開してきました。

 2010年代の今日ではまず舞踊そのもののトーンが変わってきました。バレエブームから厳しい時代になってきたと言われる事もあり、バレエやパフォーマンスに影響を受けたコンテンポラリーダンスが次第にクリシェになってきています。またダンスを取り囲む社会的枠組みが不況や数十年ぶりの政権交代で大きく変動してきているのは事実です。文化経済・政策という枠組みから不況の中のダンスシーンに対して提言をしていくことが求められています。

 その一方で情報基盤は大きく発達を遂げています。ただ、2000年代と大きく異なるのはそれのみでは新規性やそれにともなう経済効果を引き起こせないということです。情報基盤、メディア産業は基盤となり、我々の生活を大きく変えようとはしています。 

 舞踊批評・舞踊ジャーナリズムの現場でもこのメディアからの影響は顕著です。マスメディア時代のプリントメディア、放送メディアといった専門分化からそれらの境界線が次第に薄れてきた状態で、SNSのようなネットワークやBlogやTwitterのようなソーシャル・ウェブ・サービスが活動でMustになってきています。個人レベルでデジカメや携帯カメラといったデバイスを活用しメディアリテラシーと共に情報発信をする事が求められてきていますし、3次元ネットワークといった新規性のある市場に向けて情報経済の原理を実践的に探求していくことが求められています。

 そんな中で興味深い傾向が幾つかでてきています。

 Digital Communityとしての機能を持った映像サイトが2000年代中場から登場してきました。このサービスの活用はあらゆるダンス・ジャンルにおいて各劇場のプロデューサーや制作レベルでMustになってきていると考えることができます。
 舞踊界ではコンクールが伝統的に評価の上で大きな位置を占めてきましたが、インターネットを使ったコンクールの可能性については2000年代頭ぐらいから有識者は語ることがありました。それをこのDigital Communityとしてのサービスを活用してインターネットを利用したコンクールを実現してみせた極めて最初の例がSadler’s WellsのGlobal Dance Contest(http://d.hatena.ne.jp/yukihikoyoshida/20100312)です。このコンクールの興味深いことはコンクールで応募された作品に対してインターネットを通じてその映像にアクセスしたユーザーが投票できるということです。昨年受賞したのは同じアジアのアーティストで26歳の台湾のダンサー・振付家Shu-Yi Chouさんでした。
 このような試みやその審査結果が何かとジャンルごとにセクトが分かれがちな日本のダンス・シーン、90年代から2000年代へという流れの中でバレエブームとの接点の中で決まってきた日本のシーンに変化を与えていくことはほぼ確実といえるでしょう。若い才能はいつも挑戦を行うものです。ネットワークを通じて国境やジャンルを超えて様々に試みを行っていくことになるかと思っています。

 さらに先日取り上げましたが、演劇・ダンス・映像・インスタレーション・ゲームの境界線がクロスオーヴァーするようになってきており(http://d.hatena.ne.jp/yukihikoyoshida/20100313)新世代のダンサーの表現の傾向が気になるところです。

 洋舞のコンテ・モダンに限って言えば、2000年代はどうしてもバレエとの接点が強いアーティストが評価を受けてきたのは事実です。しかしモダンベースの現代表現も重要です。内田香、矢作聡子、菊地尚子らはアジアでも通じる実力を持っています。
 拙評で触れましたが、2009年度末に行われた10年代のダンスを先読みしたような文化庁人材育成事業による公演で上演された池田美佳作品や昨年の全国舞踊コンクール創作部門で評価をされた山口華子作品はAsianなテイストも強い作品たちです。
上のGlobal Dance Contestで入賞したChouさんと同年代に当たるアーティストたちの活動は”Asian New Wave”ではないですが、新しい年代のダンスのニューウェーブを打ち出していってほしいものです。同年代のバレエを初めとする*1他ジャンルのアーティストとの接点も楽しみです。そしてこの新しい年代のダンス表現は”コンテンポラリーダンス”という今日ではすっかり当たり前になった現代表現に対する名称に対して次世代、新時代の表現を導くきっかけになって言って欲しく思います。