Rousse★Nov★2009

 モダン・コンテンポラリーの新鋭・新人アーティストによるダンス・コンテンツの可能性(http://d.hatena.ne.jp/yukihikoyoshida/20091003)、芸術や科学の隣接諸領域を見据えたその活動の脱領域化(http://d.hatena.ne.jp/yukihikoyoshida/20070520)は大変興味深い。2010年代をそろそろ迎えるにあたり、すでに社会的に認知をされた「コンテンポラリーダンス」という枠組みにその発想を着地させないことも求められる。いわば、「”脱・コンテンポラリーダンス”的発想・活動・現象」が次世代のアーティストたちにとってのキーポイントになる。
 内田香とRoussewaltzはNYCでもアジアでも実力を示してきたアーティストたちだ。その活動の中には次世代の舞踊芸術への萌芽も含まれているように思う。その最近の活動をレポートしよう。

小俣菜穂「Garden」

 小俣菜穂は内田香のRoussewaltzで活躍をしてきた新人ダンサーである。初のソロリサイタルを行った。そのタイトルは「Garden」だ。同年代のアーティストである青木香菜恵や船木こころがともに同じように“仮想庭園”というテーマで作品を発表している。*1同じようなテーマを扱うというのは興味深い傾向だ。モダン・コンテンポラリーのアーティストがテーマにすることが多い心象風景、深層心理、セラピーといったテーマが現代の情報社会が結びつくことで一連の作品は生まれてきたのではないかと思う。ヴァーチャリティと内面世界や生命環境といったイメージを感じさせる。10年強前に人工生命(Artificial Life)というジャンルを提案した科学者クリストファー・ラングトンは事故で重傷を負い自らの身体が蘇生をしていくプロセスを体験することで“人工生命”というジャンルを創出する原体験をつかんだ。ヴァーチャリティと生命感覚、そして環境や生命といった問題系はそれほどかけ離れているものではない。ヴァーチャリティとリアルなライブアーツとしてのダンスの境界線上に一連の新人作家たちのリアリティはあるのだろう。
 映像の中の庭園からはじまる。小俣の映像が映像の中の仮想空間を踊っていく。そしてライブのダンスがはじまる。Roussewaltzのアンサンブルは所夏海、渕沢寛子ら第二世代が大きく担っていた時代からモダン・コンテンポラリーのトップクラスのアンサンブルだった。そこにゲストのように蛯子奈緒美が加わることで、名ダンサーたちがアンサンブルを組み強度の強い視覚表現を誘発することを期待させるような緊張感すら漂っていた。カンパニーの試みは近年の強靭なスペクタクルを切り出していくが、その一方で内田自身は近年のソロ作品にみることができるような新しい地平へと挑んでいく。一連の流れの中で時には仕事人に徹して職人のようにアンサンブルやユニゾンを大きく支えてきたのが寺坂薫やこの小俣である。このダンサーはコンクールでは完成度の高い作品を踊るのだが、本作前半ではセッションハウスとかで良く上演されているような日常的で“ぬけた”タッチのコンテンポラリーダンスが続く。西村葵の振付がこの芸術家の新しい横顔をみせてくれた。動きのシークエンスの中に時折Rousseのスタイリッシュなムーブメントが現われてくる。そこに人工空間のアバターのようなビデオダンスの中の小俣の動きが加わっていく。ライブとヴァーチャル、日常的な表現と非日常的な踊り、この2つの軸を見据えながらライヴ×非日常、ライブ×日常、ヴァーチャル×非日常、ヴァーチャル×日常と4つのディメンションが作品表現の中に生まれてきているように思う。今日ではビジュアル・アーツはネットワークゲームからアニメ・漫画のようなポップアートまでに拡散してきているわけだから、ダンスを見ていても漫画のようなビジュアル表現、ネットワークゲームのようなダンスコンテンツと出会うことがある。この踊り手が自身の表現を確立していくプロセスが気になるところだ。
  後半ではコンクールで披露するようなダイナミックなムーブメントに映像による演出が加わる。充実して取り組みたいテーマを踊っているという感触が心地よい。メディア・インスタレーションとダンス、ダンサーとアバター、その境界線が次第に薄くなってきている。*2しかしライブアーツだから生での体験だからこそみたいものが欲しいのは事実だ。演出とダンスシーンの相互の歩み寄りがこれからの課題といったところだ。結果としてラバンセンターがあるロンドンから生まれてくるようなコンテンポラリーダンスに近いテイストが生まれてきているのは見逃せない。小俣が活躍する近未来においては現代表現を”コンテンポラリーダンス”というすでに社会的に認知をされた既存の枠組みに着地をさせていても難しくなる。”脱・コンテンポラリーダンス”ともいうべき射程も重要になってくるはずだ。*3これからが楽しみな存在の一人だ。
(11月8日 セッションハウス)

RagaR Show In Claska
 Roussewaltzのビジュアルを担当しているCGデザインユニットRagaR(戸澤徹+渡邉泰裕)の展覧会が行われ、カンパニーメンバーのトークが行われた。司会をつとめたのは今最も旬なダンサーの一人、マルチタレントな寺坂薫である。ダンサー達がソニーエリクソンのPVで競演した秘話から普段あまり話さない印象がある内田香のクリエーションに対する姿勢まで幅広く語られた。戸澤は様々なジャンルでCGやインタラクティヴなデモのデザインをしてきたアーティストだ。そんなアーティストの観客=ユーザーとのコミュニケーションを重視した作風と内田の美意識が一連のアートを生み出しているのは興味深いことだ。
(11月14日 Claska

寺坂薫・ウェブサイト:http://www.kalin-net.com/
寺坂薫・インタビュー@ITMedia:http://plusd.itmedia.co.jp/pcupdate/articles/0405/31/news001.html
RagaR Webpage: http://www.ragar.jp/

*1:Ballet Pixelleの劇場はオンラインの3次元ネットワーク上に存在する。仮想環境とダンスの接点である。http://d.hatena.ne.jp/yukihikoyoshida/0919/

*2:例えばメディアアートに関するフェスティバルではこのようにアバターを使ったダンス・コンテンツ制作も行われている。http://d.hatena.ne.jp/yukihikoyoshida/20090503

*3:例えば新人たちはメディアを使って活動しだしている。http://d.hatena.ne.jp/yukihikoyoshida/20091003