エハラ版枕草子

2008年江原朋子ダンス公演
エハラ版枕草子

 江原朋子の新作は「枕草子」や「源氏物語」といった平安時代の日本女流文学をダンスで描こうという作品だ。若い日には厚木凡人の下で活躍した肉体派のこの作家も”老い”と向かい合っている。ムーブメントや身体表現に思考が表出するのではなく作品の主題に多くが現れる作家であるため、ダンスで日本女流文学の古典と向かい合うというテーマは作家の現在形として意義があるだろう。しかし、演出が日本の創作作品で良く用いられるような和の情景を描く小道具たちによるものだったり、動きの中に一定の緊迫感が現れない、といったことから、舞台を見るものは時折表現に登場するアンダーグランド的な感覚を楽しむことになる。この独特な感受性をより強く前に打ち出すとすれば、若手ダンサーたちを大きく起用し作家が80年代90年代と確立してきたスタイルでがっちりと振付け舞台を構成するなどして期待に応えるような部分もあってもよいのではないか。”和”ということで情景が叙情的に展開をしすぎていて、若い女性ダンサーたちが時折みせるがっちりとした表情が効果的に打ち出せていないように感じる。
 作家の動きは今日の吉沢恵の動きを彷彿とさせる下りもある。江原は日常の中のベタな感覚を重視しているのであれば、吉沢は洗練された感覚を作中に登場させることが多い。主題に多くを語らせるのではなく、振付や構成といったディテールに意識を払いながら綿密に舞台を練り上げることができれば、作家は昨今のこの苦戦を抜けるのではないかと思う。人は時間を経るにつれて年を重ねる。江原ならではのアーティストとしての時間に対するコンセプションがさらに強く出てきても良いように感じた。

(シアターχ)

主催:トモコエハラダンスカンパニー