原裕子first Solo dance performance

 原裕子はRoussewaltzで活躍をする若手ダンサーの1人だ。現在のRoussewaltzでは所夏海が若手女性陣の中では名実共にトップダンサーだが時折そこにあの蛯子奈緒美が加わったりすることもある。若干ブランクがあったが年末からは渕沢寛子が戻ってくる。(しばらく所=蛯子でみてきたところに渕沢が戻ってくるのだから楽しみだ。)彼女たちはカンパニーの中では実質第二世代にあたるのであろうが、さらなる新世代、第三世代にあたるのがこの原裕子や創作でその才能が嘱望されているEmily(鈴木恵美理)、コンクールで赤丸急上昇の大きな伸びをみせている伊東由里だ。デジタルクリエータとしての横顔も持つ寺坂薫のマルチタレントぶりも見逃せない。そんな原が最初のダンス公演を実現させた。
 カンパニーも結成5年目で男性ダンサーも鈴木陽平、木下あきら、白髭真二といったラインアップに柳本雅寛や池上優のようなダンサーが加わってくるなどエネルギーが出てきている。夏にアジアでの活動を経てきた内田香とカンパニーは12月16日に劇場で公演を行い年2公演(いずれも新作)を達成することになる。モダン=コンテンポラリーのダンスカンパニーでプロダクションの水準とエネルギーでは大きくリードしている。
 六本木のクラブではジャズシンガーとピアニストの演奏と共にそんな原の最初の公演が行われた。


原 裕子 first SOLO dance performance with 梶 多美江 & 田中 俊光  "frozen time"  
ジャズシンガー、ピアニストと共に奏でるLive Performance

 原裕子の最初のソロダンスパフォーマンスが行われた。原は最後の時期の金井芙三枝舞踊団や内田香のRoussewaltzで活動をしてきた新人作家である。女性性という問題系を問うような重々しい表現がかつては多かったのだが、最近では溌剌とした明るいダンスや自然をテーマとした精神性の高い作品を発表するなど一段と成長をみせている。最初のダンスパフォーマンスはこの2つの新しいベクトルを表すが如くジャズシンガーやピアニストとのライブパフォーマンスになった。
 暗闇の中から原が現れると小声をつぶやきながら大きく踊り始める。亜麻色の衣をまとった芸術家の肢体が弾けると水が流れる音が流れはじめ神秘的な光景が立ち上がっていく。スピーディーに身を走らせていくのだがその動きの質感には内田の振付で踊るときにみせるようなコンテンポラリーダンスのシャープなタッチも強くみえるのだが、ソウルフルで明るく豊かな感情表現も時折立ち現れてくる。*1通常、自然を描くこのような作品で踊るときに多くの作家が抽象的な音楽を使うことが多い。しかし原が今回ジャズシンガーとピアニストと共演したのはそんな作家の動きの質感や感覚から立ち上がってくる世界によるものが多いだろう。黒い舞台空間の天井には小さなクリスタルが輝き続けている。
 原はオリエンタルなフレーズを踊ると梶多美江の歌声と田中俊光のピアノ演奏がしっとりとした情感を立ち上げてくる。作家はこれまで東洋的なムーブメントをみせることはなかったのだが踊ってみるとこれがまた意外にしっくりくる。作家の根源にある衝動を踊っているような感触も感じた。
 後半は梶のヴォーカルと田中の演奏からはじまる。懐かしいトーンの曲調から始まるのだが、ドラムのビート感が混じってくるとクラブミュージックのような効果が生まれてくる。この二人は原と同年代のパフォーマーなのだがそれぞれに光るものがある。共に初々しい部分もあるのだが、梶の人生の深みに迫るような歌声の表情、抱擁感のある田中の演奏はいずれも印象的だ。やがて原が黒い衣装に着替えて登場し、明るく感情表現いっぱいに舞台で踊っていく。自然の中に立ち上がる一瞬の情景を明るく表現してみせる。やがて原の近作『PRISM』がはじまる。ライトを浴びながら1つ1つのフレーズを大切にしながら丁寧に踊る作家の姿が印象的だ。歌声とピアノの音の余韻、そしてフレッシュな踊りのトーンが像を結ぶことで終演した。
 原に限らず最初の公演とは舞踊家にとっての第一歩である。回数を重ねて歩みを進めていくことで近年のこの新境地がどのように展開をみせていくかが楽しみなアーティストといえよう。ダンスのみならず歌やピアノを楽しむという意味ではライヴアートとしても楽しめる内容だった。
(西麻布Super-Delexue)
ダンス:原裕子  歌:梶多美江  ピアノ:田中俊光  衣裳:Rumiko、吉田ひとみ  ヘアメイク:松井みどり

*1:最近、康本雅子をインタビューすることがあったのだが、康本の動きが何故多くのオーディエンスにナチュラルに受け止められるかというと民族舞踊のアフリカン・ダンスをやっていたからだと思うときがある。原は民族舞踊はおそらく専門にやっていないと思うのだがそれに近いようなことを感じた。 参照 http://www.cinra.net/interview/2008/09/22/172000.php