新曲『浦島』

 六本木や恵比寿でさえ、仕事上がり寸前の夕方にビジネスマンたちが平気でカフェで団欒をしていないのに、上野・浅草では何故か夕方からちょっと早めに盛り上がっている。そして何気にDEEPなカルチャースポットも多い。上野・浅草は江戸っ子ではない都民にとってはちょっとした秘境だ。

 上野で列車から降りるとオペラを見に行く観客で改札はごったがえしている。東京文化会館の今日の演目はオペラのようだ。横のカフェテリアで一服をしていて、平日の夕方なのに、いい歳をした夫婦やビジネスマンがこの時間帯から盛り上がっているのに驚いた。ロダンの彫刻、「地獄門」を遠目に見ながら東京藝術大学に向かう。東京藝術大学というのは道一本で音楽学部と美術学部が別れていて、音楽のほうは異様にハイソで、美術の方はアングラっぽい空気が漂っているという不思議な空間だ。
 ワーグナーのオペラに影響を受けて坪内逍遥が書いた「新曲『浦島』」の本邦初演がこの大学構内であるのだ。逍遥の「楽劇新論」に基づく作品であり、当時の演劇界や文芸に話題をまいた作品である。これまで邦舞では序之幕の最初のシーンだけが何度も上演され、菊五郎(六代目)が中之幕を上演したが全体を上演したことはなかった。逍遥が他界後70年ほどして実際に上演に至った。邦舞、オペラ、演劇、洋舞など様々なジャンルの表現が求められるため構想が実現することはなかったのだ。
 浦島太郎を演じたのは花柳源九郎、乙姫は花柳寿美(三代目)である。記念碑的な上演は大いに盛り上がりを見せた。



東京藝術大学創立120周年企画 坪内逍遥作 「新曲『浦島』」

媒体にてレビュー

東京藝術大学 奉楽堂)