第64回全国舞踊コンクール 児童舞踊部

第64回全国舞踊コンクール 児童舞踊部 決戦


 戦場で戦う少年兵士の悲惨さを描いた「MAMA, 僕は負けない 〜戦場で見た母の夢〜」 (かやの木芸術舞踊学園)と、明るく、ごくシンプルな「さあ歌おう! ひとつになって高らかに!!」(前多敬子 田中勉バレエ教室)がとても印象的だった。 アイデアやテクニックなどそれぞれの作品が異なる方向性で競っていたがこの2作はアートとしてみていて共感できるものだった。前者は戦争画のようなセノグラフィーもあるが、センチメンタルな音楽を使った演出とモチーフの哲学性が融合して優れた作品となった。後者は朗らかな子どもたちの踊りが音楽性を感じさせるという作品だ。また「ぶどう畑の子供たち 〜伝説のシャトー〜」(かやの木芸術舞踊学園)は地域出身の子どもたちによる愛らしい演技が地域の産業を想わせる部分もありとてもほほえましかった。作品を見守る親たちにとってはラストに登場する巨大なワインは微笑ましい演出だといえるだろう。
 いわゆるベテランの実演家たちが子どもたちのための作品を出しているケースもありなかなか面白い。また児童舞踊家の中には同じ作品で子どもバージョンと大人バージョンとそれぞれ異なる振り・演出の作品を作ったりする人もいる。少子化時代をにらみながら大人と子どもが同じ舞台に立てることを主張する指導者も出てきている。童謡運動の時代の児童舞踊と比べてみると現代は多様であり豊かな時代なのだが、かつては北原白秋山田耕作といった作家、音楽家が協力していたりするので、作家や音楽家など多ジャンルから面白い作家をつかって様々な試みが行われてみても良いのではと思ったりもした。彼らは次世代の舞踊界を担っていくため、このジャンルの可能性と意義はとても重要である。保育や幼児教育から様々な芸術分野まで広がりのあるフィールドであり舞踊関係者はその意義を認識することが重要だ。様々な児童舞踊家の作品を見ながら近未来の舞踊界について考えさせられたひと時だった。

(目黒パーシモンホール 大ホール)