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 彩の国さいたま芸術劇場にステージワンを見に行く。この会の良いところは終演後に藤井公先生のスピリットで若手出演者全員が、見に来ていた超ベテラン作家たちや批評家にアドバイスを求められることだ。いくたびに考えさせられることがあり学ぶことがある。そんなわけで修行をかねて顔を出した。



第34回ステージワン 

ステージワンは若手作家の活躍を見ることができる場だ。また今年のこの企画では若手の作品のみならずゲストとして若野信子「夏秋草図」や松崎えりの作品が上演された。
 最も印象的だったのは桜井健太「MOTHER」だ。男が叫び続ける傍らで女(松元日奈子)が綺麗に構成のきいた踊りを見せる。女は叫ぶ男の口を手でふさぐも、叫び続ける男の後ろで淡々と踊り続ける。照明がそんな二人の肌を照らしだしていく。やがて二人は丸くなり絡み合う。若者らしい初々しいテーマだ。叫び続ける男の表現に小劇場演劇で見ることができるような狂気が介在すると風刺がきいた作品にもなったと思う。松元はダンサーとして才能を一段と実らせつつあるが、桜井も独特な感覚を持った若者だ。
 秋葉和加奈・熊本梨乃「ひまわり」(振付:秋葉・熊本)は明るい夏色の少女たちのデュエット。溌溂としたペアダンスは夏の終わりにふさわしい。佐々木治子「窓が開かれている」(振付:藤井香)は手足がすらりと長いこの踊り手の資質を活かした振付だ。四角い照明のスリットを加えるなど演出を与えると面白い作品に仕上がるはずだ。高岡優貴・高橋明日香「蜘蛛の糸」(振付:高岡)はバレリーナと琴の引き手のパフォーマンス。テクニックの向上とモダンの表現の境界線を狙うことがこれからの課題だろう。山口菜摘「ゴーガンの風」(振付:上田仁美)では少女が可愛らしくタヒチの女たちを描いた。手ごたえのあるモチーフであるため何度でも練り直すとよいかもしれない。
 最後を飾ったのは松崎えり「ちいさいあし」だ。椅子の傍らで女がしっとりと情景を刻んでいく。この手のソロは木佐貫邦子らも得意とするが、彼女たちと違うのは、演出を特に駆使しなくてもなめらかな質感が伝わってくることだ。音に沿うように踊りながら、でも決して音に流されずに踊る肉体の像を立ち上げる作家が見事だった。
 若手作家たちの表現はまだ初々しいが意外な側面がある。藤井香が良く使う音は民族音楽のドラムのようにも聞こえるのだが実は現代音楽のクセナキスであったりと意外な要素に気がつかされた。戦後の現代舞踊や現代音楽から立ち上がる新世紀の肉体像は21世紀東京の風景と近似しながらもその深みを鋭利にえぐっている。若手作家たちの表現の射程について考えさせられた会だった。

彩の国さいたま芸術劇場小ホール ソワレ)