ミチオ イトウ 「ダンス」展 Exhibition Michio Ito

Exhibition Michio Ito was held and dancers performed his works.

ミチオ イトウ 「ダンス」展

演目

テンジェスチュア− 金子靖子・小林淳子・添田由紀
アヴェマリア    柏木久美子
タンゴ       米山梨恵  
ノクターン     川上 薫
ケークウオーク   勝俣 薫
ローテスランド   大越真理・金子靖子・小林淳子・添田由紀

Chacottではエリアナ・パヴロバ、オリガ・サファイアに続き伊藤道郎の展覧会が
開かれた。会場では同門会を中心に東京都写真美術館から提供された資料など
伊藤の資料が展示された。「鷹の井戸」を上演した5月の公演については
「ミチオイトウ同門会 40周年 '05」(音楽舞踊新聞,音楽新聞社 2005/7/11)
にてレビューをした。今回は戦前の作品を中心にスペースで上演できる
作品を上演した。
伊藤のテクニック10ジェスチャーはダルクルーズの20のジェスチャー
を再構成したものである。型がある為、踊りを崩さないでいるということが
出来る。その初期の作品を見ることが出来た。そのスタイルは音に合わせて
踊るというラバン=ヴィグマン以前のモダンダンスである。
オペラ歌手を志望して渡欧しただけのことはあり使用されている楽曲は
優れた曲が多い。
アヴェマリア」は伊藤がダルクローズのヘルラウの学校を卒業するときの
卒業制作であり記念すべき第一作である。伊藤の公演では良く踊られる演目
であり、故・古荘妙子の稽古場ではクリスマスにメンバーで踊っていた。
(私も古荘の稽古場に通っていたのだが、そのときに踊った経験がある。)
人間の姿を青年、熟年、老年の3つに分けて踊ったというものだ。初期の
初々しい作家の空気が伝わってくる。
そんな伊藤は1917年ごろになると在欧らしく当時の風俗を描くようになる。
当時アメリカで流行っていた黒人のパレードを描いた作品「ケークウォーク」
では黒人の水兵を暖かく描いた。シンプルな動きの構成でユーモラスに踊る
黒人の姿が愛らしい。石井漠の「ゴリゴークのケークウォーク」と同じ楽曲
であり、男女の駆け引きを描いた漠作品と比べると欧米にいた作家の見た
風景が良く伝わってくる。とはいえ、後期の堂々たる作品と比べてみると、
まだ初々しいタッチである。
「タンゴ」は1927年ごろ初演された作品だが、この作品は伊藤自身が
「磨くまで踊るまで10年かかった」と述べている。帽子をかぶった西洋婦人が
ゆっくりと踊ったかと思えばたたづみ、また踊るという内容だ。
控えめなそのタッチは劇場空間で大きく映えるものだろう。
ノクターン」もまた同じころに初演された作品であり、この作品は
当時運動ブームで街角には体育館が多くあったという風俗を描いた作品
である。赤い踊り手が明るく初々しくまるでボールを片手に持つように
演技をする。戦前の身体文化を思わせる振付世界は懐かしいものである。
「ケークウォーク」、「タンゴ」、「ノクターン」いずれもそれぞれの
時代の流行の風俗を描いたものであり、そのスタイルがまた伊藤の特色
であると井村恭子は解説した。
最後に上演されたのは伊藤によるオリエンタルダンスの名作「ローテスランド」
である。戦前にはオリエンタルダンスというジャンルが存在した。石井漠・小浪
によって踊れた「アニトラの踊り」などがその代表例だ。日本人が東洋的な
世界を描くという作品がこのジャンルには多いが、伊藤による本作は東洋的な
衣装をまとった踊り手たちによる精神世界である。東洋的な動きの随所に
彼のテクニック10ジェスチャーが存在する興味深い作品である。

伊藤は天才的な舞踊家であるが、このように時代を追って見ていくと
それぞれに時代ごとに1人の生きた人間が成長を重ねていることがわかる。
現代を生きる踊り手達の創作活動と重ねてみるとまた興味深い内容だった。

(Chacott渋谷8F)