Creative Performance V

谷桃子バレエ団 創作小ホール公演 CREATIVE PERFORMANCE Ⅴ クリエイティブ・パフォーマンス5
芸術監督 : 谷桃子バレエ団

谷桃子バレエ団は若手作家に創作のチャンスを与えていることで有名なバレエ団だ。
今回はバレエという形式に深くとらわれない創作的な作品たちが非常に印象的だった。岩上 純 による「Elf of R」は興味深い作品だ。舞台でたたずむ男(川口裕也)の前に、煙草をくねらせ女(依田久美子)が現れる。成熟をした男女がお互いの想いと距離を描き出すように、寄り添うように踊り、時には身を感情にまかせて互いの肉体を軋らせる。時々、男女がタイミングを合わせて同一の動きをしてしまったり、ムーブメントの質感がパターン化してしまうという弱点があとはいえ、演出やアイデアを通じてロマンティシズムあふれる世界を描き出そうとする作家の創意が舞台にみなぎっている。バレエの創作作品にありがちなムーブメントが冗長さとパターンを感じさせるため、緊張感を持たせるためにさらに密度の高い世界を現代ダンスの文脈で形作れると良いのではないか。前田新奈による「白鳥」はこの踊り手の面白い感覚を感じさせる作品だ。若い美容師(緒方麻衣)が仕事場で起こしたトラブルを経ながら、愛と夢の大切さを見出すという作品だ。若い美容師と共に仲間たちがハサミを持って踊りだす。青いチュチュの似合う廣瀬絢香、黒いワイルドな衣裳をまとった樋口みのりの溌剌とした表情が見事だ。やがて髪をパーマでぼさぼさにしたクレーマー(高部尚子)が現れるとパーマの失敗にカンカンに怒り出す。しかしなんとか男性店員が丸め込み逆に満足させて返すことに成功する。美容師は失望の中で夢と愛の大切さを願う。すると舞台の上では白鳥と王子(桑原文生)が二人踊りだす。細かい構成や振付をさらに磨き上げることが重要だが、モチーフの面白さや感受性はこの作家の持って生まれた面白さを感じることができる。非常に面白い作家であるためにこれからが楽しみだ。
一方バレエならではスタンダードといえる明るい作品たちも今回は水準が高い内容だった。植田理恵子の「May I help you?」は舞台いっぱいに広がるチャーミングな踊り手たちよるダンサブルなナンバー。ワードロープに架けられた1つ1つの服の物語を語るようにドレスをまとった踊り手たちがそれぞれに踊っていく。中でもスパンコールを光らせてゴージャスに踊る正木智子、赤いドレスをまとった新井望、白い衣裳でシャギーに踊る伊藤さよ子が見事だ。さらに構成にスピーディーで抑揚のある感覚を与えることで、さらに踊り手たちの肢体を舞台に走らせることができるようにも感じたのは事実だ。一方、日原永美子「タンゴジブル」は哀愁のあるタンゴの旋律と共に展開するスペクタクルだ。踊り手たちがそれぞれに躍動する肉体を駆使して大きく身を中に走らせていく。中でも黒い衣裳を用いながら心の光と影を踊り描いた朝枝めぐみが印象に残った。
コンテンポラリーダンスの黒田育代もメジャーになる寸前にこの会で作品を発表したこともある。おおらかに若手作家が創作作品を発表できる場を提供しつつけているという意味では意義が深い企画である。

(東京芸術劇場 小ホール1)