谷桃子・岩上純

谷桃子バレエ団 創作バレエ・11「古典と創作」
「ロマンティック組曲/REQUIEM」

 谷桃子バレエ団の今回の「古典と創作」では谷桃子振付の懐かしい作品「ロマンティック組曲」と岩上純の現代作品「REQUIEM レクイエム」を上演した。
 谷桃子の1953年頃の作品「ロマンティック組曲」はピアノとオーケストラによる作品だ。当時ショパンの遺作がいくつか見つかり福田一雄がそれをバレエに使うことを思いついた。それを河村洋一郎が選曲することで生まれた作品である。初演は谷自身は出演してなく、発表会のような公演で上演された―と河村は回想する。オーケストラは用いずピアニストのみがこの音楽家の曲を演奏する。そのため移動公演に持って行きやすくこの演目は地方でも上演された。多紗於里が今回ピアノを演奏した。フォーキンの「レ・シルフィード」を思わせるような白いバレリーナたちが踊る姿が印象的な作品である。ホリゾントは油絵を想いおこさせるようなタッチで青や緑の色調が踊り手たちの姿をあたかもそれが絵画の一場面のように演出する。伊藤範子と斉藤拓を中心にショパンの小品に沿って踊り手たちが情景を踊り描いた。その様式は名曲によって踊り手が踊っていくオリガ・サファイア日劇時代の作品「青き美しきドナウ」を想いおこさせるような戦後のバレエならではの表現だ。(サファイアのこの作品はダニロワの来日の時にも上演されたようであり、その意味では年代的に近い部分もあるかもしれない。)伊藤の踊りは作家がコンテンポラリーダンスで活躍する姿と異なり、現代の踊り方というよりは、空間や間合いを活かしながら情景を描き出す昭和の踊り方といえる一時代前のものだ。映像に残されている谷の踊り方を思い出させる。斉藤はこの作品では純朴な青年の表情を垣間見せた。”プレリュード”の中では表情豊かに踊る緒方麻衣の姿が心に残った。緒方はコンテンポラリーダンスで活躍をはじめている踊り手の一人であり、これからが楽しみだ。
 続く岩上の「REQUIEM レクイエム」は対象的に現代作品だ。岩上は舞踊作家協会の公演ではコミカルな作品を上演することが多いが、その活動の重要な部分はこのバレエ団で上演する作品にあると思う。過去にも力作を発表してきた。古典「ジゼル」に着想を得た本作品は作家の作品の中では重要な作品といえる。近未来的な衣裳をまとった男女が愛しあい悲劇的な結末を迎える。特徴的なことは男性と女性が原作と全く逆になっているということである。例えばウィリーたちはこの作品では男性たちだ。このような作為が物語として機能をしているかというと、ジェンダーポリティクスやジェンダーの転換が引き起こす面白さを若干生み出していたのだが、作品そのものは1つの物語に収まっていた。前半の一人の男をめぐりあって女が二人争うシーンなどでは物語バレエに良くあるようなアダージョやマイムのような描写も見ることができる。この表現が長く冗長的に感じられたのは事実で、抽象表現を入れることで、より効果的に感情表現を機能させることが出来るようにも思える。後半の男たちの亡霊が舞台に登場するシーンになると、群舞構成も見事で情景にスピード感とテンションが生まれ力強い表現となる。岩上はこれまで時間の短い作品で効果的な作品を発表してきたが、この作品は作家にとっては長い作品といえるだろう。作品全体を構想する上で、物語だから身体表現を通じた物語的の表現ということに強くとらわれすぎず、小品で見せるような現代的な力強いムーブメントから情景展開をすればより的確にモチーフを打ち出すことができるように思えるのだ。優れた演技を見せてくれたダンサーたちの感性を捉えるような一線があるはずだ。ダンサーたちの演技はいずれも充実したものだったが、中でもヒロインの未来からきた女を演じたスレンダーな永橋あゆみ、亡霊を中心的に描いた梶原将仁は近未来的なこの作品の作風と踊り手としての持ち味が歩み寄り優れた表現を見せていた。
 谷バレエ団のこの企画では黒田育代もメジャーに大きく出て行く前に作品を発表しているし、前田新奈などコンテンポラリーダンスになじみが深い面々も通過してきている。斎藤などバレエでも実力のある踊り手たちが出演する公演だ。明日の14日のキャストに入っている宮城文も動向が楽しみな作家の一人だろう。抽象から物語バレエまで幅の広い作家たちに出会える公演であり足を運ぶと良いのではないか。

めぐろパーシモンホール 大ホール)