地唄舞 葛タカ女 「舞の会」

地唄舞 葛タカ女 「舞の会」


 地唄舞の名手による創流派5周年の舞の会が開かれた。注目を集めたのは第二部の葛タカ女の「羽織褄」と「珠取海女」だ。「羽織褄」では唄・三弦の小原直の見事な唄と共に遊女のやるせなさが歌われる。前半は古今集の歌に基づいており、後半は「しょんがえ節」となる。鶯色の衣をまとった踊り手が踊り終えると衣を脱ぎ扇を手に舞う。一方「珠取海女」では青い海女の強さと優しさが描かれる。いずれも初々しいがしっかりとした内容だ。場面、場面のふっとした自然な表情が心地よい。
 第一部「かつら会」では門下生たちがそれぞれに作品を披露した。洋舞と異なるのは歌声を通じて情景を「見立てて」いくということであり、振付そのものが具象や抽象であるということでないということだ。普段、フラメンコのカンテやパルマ、様々な洋舞の表現に接している身からみても日舞のこれからの新人の舞は興味深かった。中でも葛たか千代「鐘が岬」では娘道成寺の世界が上品な地唄と共に歌われる中で描かれた。扇に描かれた桜を用いて、たか千代は艶やかに女の情念を描く。実に円熟した演技から踊り手の情感が見事に立ち上がった。地唄「八島」では葛たか葉が近年あまり踊られてこなかったこの曲を描く。踊り方がスタンダードな下りがあり、より深みが出てくると良い。江戸の歌舞伎舞踊と対比される地唄舞だが上方文化の洗練と艶やかさが味わい深い。
国立劇場そのものに言えるのだが、現代では浅草や神社仏閣に残っている明治以前の空間、部分的にレトロなキッチュさも感じる。何故かこの空間ではあんみつやゼリーが売られ、人々は和服を着ているという、独特な美学があるのだ。だが舞台を見つめていると広がるのは、そこに登場するのは石井漠や山田耕作、伊藤道郎、高田雅夫・せい子といった洋舞の起源以前の数百年を経て伝わってくるこの国の芸能である。

国立劇場 小劇場)