飛鳥斑鳩

 東京も秋らしくなってきたかと思えば、再び残暑のように蒸し暑くなる。やはり今年は普通の天気ではない。国立劇場文楽や日本舞踊の観客たちでにぎわっていた。今年も芸術祭のシーズンがそろそろはじまろうとしていて関係者にも活気が出てきている。



第23回西川扇蔵リサイタル

 今回の西川扇蔵のリサイタルでは創作作品も古典のみならず創作の作品も披露された。西川の創作作品を見るのはこれが初めてだ。
 常磐津「角兵衛」は江戸になってきた獅子舞の芸人(西川扇蔵)と江戸育ちの鳥追いの芸人(西川扇祥)の恋物語だ。文政十一年(一八二八)年に初演された。二人が花道から登場し、舞台で芸を披露するうちにお互いに親しくなっていく。獅子舞の頭をかぶった扇蔵が切れ味よく越後の芸を披露すると、扇祥は朗らかに踊る。二人の掛け合いが微笑ましい作品だ。
 続く、創作長唄「飛鳥斑鳩」は聖徳太子の物語を描いた。いわゆる日本舞踊の創作というよりは、グランドオペラとまではいかないのだが、立体感のあるスペクタクルを感じさせる演出による作品だ。台本を書いた駒井義之は西川作品に古代がないということもありこの素材を選んだという。冒頭、蘇我馬子(西川扇新之助)と物部守屋(西川扇与一)が信仰と政治闘争が絡んだ争いを繰り広げる。物部が討たれると聖徳太子(扇蔵)らは平和な日々を描き出す。物部は鬼に化けて再び登場するが成敗される。やがて太子は十七条の憲法を発布するも雷に打たれて他界する。曼陀羅と共に太子が日本に位置づけた仏教と思想が語られる。そんなストーリーの物語だ。西川箕之助や西川扇千代たちが踊る平和な男女のペアダンスなどは洋舞のシンメトリー構造に通じるものがあったりと洋舞のスタンダードな構成に近い下りもありそういった表現技法がスペクタクルを感じさせる演出にあっていた。現代からみた神話といえるような古代世界を描く上で、唄の中でも何度も繰り返された太子にまつわるエピソードはシンプルなメッセージで切り出せると作品にポピュラリティを持たせることができるかもしれない。扇蔵は渋くきりりと踊っている姿が印象的な踊り手だ。そんな踊り手のテイストが人気を生むのかもしれない。踊り手の世界と日本舞踊の伝統とがうまくフォーカスがあうとさらにこの魅力を語ることができるのではないか。古代とは現代人、21世紀東京を生きる市民、にとっては1つの神話世界である。都市風景の中には江戸どころか近代日本社会の風景すら次第になくなってきている。グローバリゼーションのこの現代に神話を描き出す技法はおそらく戦前・戦後の技法とも次第に変わってきているはずだ。新世紀の日本舞踊もベテランや若手作家たちの様々な試みを経て生まれてくるのだろう。
 扇蔵ならではの醍醐味とともに、扇祥の踊りや立ち振る舞いの魅力が十二分に発揮された会であったように思う。

国立劇場 大劇場)