牧阿佐美 お別れの会

「牧阿佐美 お別れの会」(2022年9月6日、新国立劇場 中劇場)
牧阿佐美先生のお別れの会が行われた。世話人は牧阿佐見バレヱ団と新国立劇場運営財団、喪主は三谷恭三だ。コロナ禍の最中、バレエ界の関係者が多く集い、中には現代舞踊やフラメンコの長老たちの姿もあった。
三木谷春子、銭高眞美が挨拶し、お別れの言葉を遠山敦子と戸倉俊一が述べた。牧が日本のバレエ界の基をつくり後進を多く育てた事、橘秋子からバレエ団を引き継ぎ今日へ繋げた65年間、新国立劇場新国立劇場バレエ団を立ち上げ軌道ののせたこと、バレエ芸術へ深い愛情と生きたことが語られた。その結果として牧はバレエ界初の文化勲章の受賞の知らせを他界する前日に受けることになる。そしてこれが三谷と牧の最後の会話となったことが喪主から語られた。まさに天命を全うしたといえる生涯だった。
世界のバレエ界を繋がりながら日本のオリジナルなバレエを発信してきたことも重要なことだ。これは前週末に行われた追悼公演での「飛鳥 Asuka」の上演ともつながる。ロビーにはこの時の1stキャストの主役だった青山季可・菊地研が立っていた。牧バレエ団や新国立劇場バレヱ団の名ダンサーたち、スタッフたちもいた。彼らも同窓会に近い状態だったが、観劇してきた側も走馬灯のように様々な名舞台を回顧することになった。そして献花の時には「くるみ割り人形」の雪の場面の音楽がかかっていた。
牧は芸のみならず、洗練された品の良い生活をおくることや、日本の文化を知ることを重視していた。バレエを通じて精神や品の向上を考えたこと、能・歌舞伎や小笠原礼法とバレエに共通点を見いだしていたことも語られた。これが牧が世界のどんな立場の人からも関心をもってもらえる存在と語られるようにせしめたベースだろう。
2021年という年は牧や山野博大らが旅立った。それは戦後という時代を回顧しながら新しい風を考える時でもある。個人的にも公演会場や青山の稽古場で世話になることもあった。お会いするといつも「いらっしゃい」とあの口調でおっしゃてくださった。
音楽舞踊新聞から批評活動を開始した私はバレエについて現場で多くを学び、戦後の代表作家たちや牧や薄井憲二、松尾明美慶応義塾バレエ研究会の先輩たち、そして久保正士ら20世紀舞踊の批評家たちから多くを学んだ。戦前~戦中期の話も交えながら50年代・60年代の洋舞界のことも多く学んだ。これからのバレエ芸術を見守り育んでいきたい。