Another Time

 前日になって急遽横浜近郊に行かねばならない用事ができたこともあったのだが、うまく重ねて中村恩恵のDance Sanga Studioのショーイングを見ることができた。


Dance Sanga Studio Showing 「Another Time」

 「Another Time」とは詩人W・H・オーデンの詩篇の名前だ。中村恩恵の世界とも通じるこの詩に着想を得ながら、世界中の人の様々な主観的な体験と置かれている異なる状況があるなかで何を伝えていくかということをテーマにした作品である。
 中村がごく自然に現れるとゆっくりと踊りはじめる。空間には流れる水の音が流れだす。廣田あつ子や若者たちも現れ情景を彩りだすと、音楽はホワイトノイズのようになりやがて都会の生活を描きだす。
 肉体は鋭く切りだされる形象の美しさを大切にしながらスピーディーに動いていく。女たちは同じシークエンスを繰り返しながら少しづつずらしたりしたかと思えば構成に基づいて情景をがっちりと立ち上げる。演出や音楽を効果的に用いながらも振付家の思考は身体表現を通じて日常と非日常の地平線を綴り上げていくのだ。具体的なストーリー展開に表現を着地させるのではなく、少しづつ変わっていく情景展開を通じてこの同じ1つのテーマ繰り返しが立ち上げられていく。ただ精神的な情景が連なっていくのではなく、スクエア状に女たちが広がり明るく盛り上がるようなシーンも間に織りこまれていた。やがてまた水滴の音が象徴するような雄大な自然の中へ回帰していく。それぞれの踊り手たちの主観的な体験や日常的な素朴な表情が表現へとなっていくその瞬間を捉えたような作品であった。
 一見バレエを学んでいる若者たちがでているように思えるが、モダン=コンテンポラリーの新人たちや年配のダンサーたちも参加をしている。ヨーロッパを経て日本に活動の拠点を設立した中村の表現を吸収した若者たちが切り拓いていく次世代の身体表現について考えさせられた夕方だった。

(Dance Sanga in Honmoku YOKOHAMA ソワレ)