ダンスが見たい!8 総評

[die pratze Dance Festival「ダンスが見たい!8」より]
          吉田悠樹

矢作聡子、庄崎隆志、そして野崎夏世による「La trace」は実に知的な作品だ。一つの方向に進む人間が別の地点にたどり着くということがテーマである。まず矢作と庄崎が掛け合うように動き出す。野崎は役者として表現を始める。背景にロールシャッハテストで用いるようなイメージが投射される。一連の映像はcellのファンタスティックで実験的な世界だ。日常風景の中からストーリーが重層的に描かれる。演劇的なダンス作品と一線を画した内容だ。矢作が踊ると一つのシークエンスが展開し、次のシークエンスへと連なっていくといった風に身体、演技、そして発話が連なり層を成していく。野崎がサン=テグジュペリボルヘスが思い出や記憶について語ったテクストを朗読したり、自身の言葉を口ずさむ。庄崎は聾演劇で活躍をする作家だ。身体性を活かしながら男は矢作と連動をするように動いていく。野崎は内に秘めた思いを大声で叫ぶ。芸術家たちはあやとり遊びをはじめ、ついに舞台いっぱいに赤い糸が張り巡らされ終わる。作家たちそれぞれの原風景に迫ったような世界だ。古賀豊も自らのスタイルで挑戦を見せた。「Romeo VS Juliet」では恋人同士の恋愛を現代では薄れつつあるロマンティシズムと共に描く。前衛演劇のセリフではなく身体の動きを活かした俳優のパフォーマンスから幕を開ける。壁際には男たちが現れる。鍛えられた肉体を持つ鈴木陽平、端正な肢体の表情を持つ白髭真二、踊りそのものと純粋に向かい合う姿勢がひしひしと伝わってくる大久保雅文、と様々な男たちが集う。濃密な男の空気が狭い空間にたちこめる。やがて女たちも現れる。チャーミングで大人の魅力を持つ稲川千鶴、天使のような小松あすかと神秘的な皆川まゆむ、初々しい金沢恵美といった面々だ。テクニックで池田美佳が魅せたかと思えば、久慈恵里奈の肉体が走り始める。踊り手たちが消えると、愛の末に心中を迎えた男女の悲劇が俳優たちによって物語られる。すると女たちと男たちによる何組ものアダージョが目の前いっぱいに繰り広げられる。蓬沢太士と共に踊る稲川はニンフのように幻想的だ。稲川は高い資質を持った踊り手でありシーンでも強く認知をされるべきだ。グラスマスな鈴木とほっそりとして清楚な池田も絡み合う。神秘的な空気を持ったCOTTSUと久磁も愛の深みに迫る。白髭と金沢による初々しい男女の姿からも目が離せない。ユニゾンを駆使したようなパートには立体感と変化がさらに出てくると良いだろう。「cuirasse」−鎧− die pratze special versionは日本のイラク派兵の話から作品がはじまる。現代日本の状況が六十年代やジャンヌ・ダルクの物語と重ねられていく。すると軍服姿の内田香が登場する。女たちと内田ははしゃぎあい舞台いっぱいに円舞を描く。前線の男たちが力強く踊ると、内田は男装から女性の姿へと代わりドラマティックに終演する。現代的な先端表現と絡めるとさらに伸びるようにも感じる。
(麻布die pratze 8月1日、13日 ソワレ 神楽坂 22日)