レンチキュラレンズ

 表参道のギャラリー360℃に永島京子の展覧会「コンビネーションシリーズ」を見にいく。(3月15日)パフォーマンスとも接点があるフルクサスオノ・ヨーコ、そしてヨーゼフ・ボイスなどを紹介しているギャラリーだ。写真のホンマタカシも時々展覧会を行う。独特のセレクションに固定ファンも多い。永島も何回か展覧会を行っている。何回か見ているが興味深いアーティストで下のURLからアクセスできる「Mirror -at T- 01len」などはイラストレーターのキクチキミエ*1の作品などと一緒に私の作業場に飾っていた。1970年生まれ、フランス在住のアーティストである。

 メディアアートやコンピュータグラフィックスといったメディア芸術がトレンドの昨今だが永島京子はレンチキュラレンズを使った視覚表現を展開しているアーティストだ。レンチキュラレンズというのは目の前を移動するとチラチラと見え方が変わるあの映像表現だ。実際に目の前にするとマテリアルとしての存在感があり、毎日コンピュータや携帯端末のディスプレイを見て生活をしている我々にとって、エクスペリメンタルなタッチを与えてくれることもある。3次元ディスプレイが市民生活の中に本格的に登場しようとしている現代だが、視覚文化の素材にこだわりを感じさせてくれるアートともいえる。
 「the combination of SPIRAL -under-」(2010年)を目の前にして立つと、モノとしての存在感があり、また身体の角度を変えたり移動したりすると見え方が変わってくるため、知覚の変容の様な効果も与えてくれる。


the combination of SPIRAL -under- (2010)
lenticular acrylic 320X1150mm
(C)Kyoko Nagashima

 下の写真にあるように可愛らしいボックスの中に映像が張り込まれている作品もある。穴底に座った人物の動きがスローモーション映像になるシーンから静止画をとって作品化した作品だ。同じように目線を変えると少しづつ対象の女性の表情が変わってくる。細かくセルで区切られたような東京の都市空間、やや内にこもりがちな現代人のあり方とも通じるような側面もある。

slow × mirror box(2010)
(C)Kyoko Nagashima

対象として描かれているのはコンテンポラリーダンスに近いような都会の女性の日常風景や自然の中で活動をする女たちが多い。*2しかし背後にはしっかりと写真や映像表現のベーシックな基礎が潜んでいる。

作品映像は下のページからどうぞ:
ダンスファンに親しみやすい作品が多いです。

http://em.m-out.com/ec/html/category/001/003/313/category313_0.html

 妙にテーマに政治性や社会問題を据えたりせず、誰もが意識の深層に眠らせているような鮮やかな世界を切り取ってみせてくれる。映像表現や写真表現とすると玄人な素材とトーンなのだがいつも見るものを楽しませてくれる。今回は映像を使わずいつものこのマテリアルを使ったのみの展覧会であった。様々な形態で3次元の視覚表現や記録文化がこれからダンス表現でも重要になり*3、また一般の社会生活に流れ出そうとしている現代だからこそ、その意義を身近に感じることができる作品たちといえまいか。

永島京子 HP:
http://www.nagashimakyoko.com/index.html

*1:竹村延和の名盤"Child's View”のレコードジャケットを手がけるなどクラブシーンを中心にカルティックな人気があるイラストレーター。http://www.flickr.com/photos/34744397@N03/

*2:http://www.nagashimakyoko.com/index.html

*3:http://d.hatena.ne.jp/yukihikoyoshida/20100313