1月も最中です

平成20年度文化庁芸術団体人材育成支援事業 現代舞踊公演
今年の現代舞踊公演は創意あふれる作品に注目したセレクションだ。現代の創作の多様さを感じさせた。
明るくオープニングを飾った中村隆彦「みんな何処へ…行進曲」では冒頭一列のダンサーが現われる。肉体たちはリズミカルに踊ってみせたりきびきびと行進をみせたかと思うと、椅子の上でポーズを取ったり子どもの玩具を使ってコミカルに動く。そしてユーモラスなそぶりから日常をずらしていく。情景の中で武元賀寿子が日常を異化するように動いてみたり、あすかなおこが力強く踊ったりする。面白さや明るさに焦点をおいたポップダンスだ。情景展開を集約して明確な美意識を打ちだすことでさらなる射程を示すことも重要だ。
続く鍵田真由美・佐藤浩希による「愛と犠牲」は現代フラメンコだ。女の生きる姿をドラマティックにまとめた。ライン状にダンサーたちが現われる。踊り手たちはサパテアードを踏んだり、プリミティブな肉体の動きから動きを刻みだす。鍵田は愛を追及する女の姿やその地平から生まれるドラマを描いていく。ベテランの矢野吉峰、渋みを増してきた新人ダンサーの末木三四郎といった男性が充実した表現を披露した。東陽子や工藤朋子も活躍をみせた。フラメンコが立ち上がる瞬間とその時空に挑んだ作品といえる。
最後を締めくくった西田堯による「野宴 イーハトーボの四季」は力作の再演だ。音楽は現代音楽の安達元彦による。目の前にはお花畑と異郷の壮大な風景が広がり奥には獅子舞の道具が置かれている。青木健がきびきびと踊りだす。素朴な男性の表情はこの踊り手ならではの持ち味だ。藤本久徳の壮大な美術による明るい春の情景が目の前いっぱいに描きだされる。民俗的でもありかつ鋭利なモダニズムに基づく美意識がシャープに切りだされる。夏のシーンでは在家育江が踊りだす。情感あふれる清らかな踊りはこの優れた芸術家ならではの持ち味だ。すると大神田正美、松永雅彦、そして小泉憲央がそれぞれ力強く踊る。続いて山村で戦争に借りだされた息子を持つ女たちの悲しい心情が描かれた。作家が一貫して表現してきた平和への祈りが込められている。秋になると稲穂を前に豊年満作の踊りが披露される。加十詩絵や望月祐実子が鮮やかに舞うとその背後では鹿踊りの装束の西田が踊っていく。東北の文化や芸能も大切にした江口隆哉の世界にも通じるシーンだ。やがて冬の情景が広がると、雪と暮らす民衆の姿が描かれた。反閇(へんばい)のリズムも心地良い。鋭い芸術性を持ちながら東北の芸能などにも着目するなど幅の広さをもっていた江口舞踊団の作風も彷彿とさせた。宮沢賢治は浅草オペラをみていた。そんな宮沢文学のイメージは江口の舞踊の源流とも連なり重なる。西田は壮大な幻想世界を作品にまとめた。後藤武による照明デザインが現地の大気を描いていたのは見逃せない。
世界的な不況の最中も舞踊家たちは未来へと熱く活動を重ねていく。
新国立劇場 中劇場)
主催:現代舞踊協会