肉体と空間

宮下恵美子の仮想ダンスカンパニー・アトリエム「最初の冬」
 モダン・コンテンポラリーではいわゆるコンセプチャル、アブストラクト、それから物語調の作品をみることがこのところ多かったが、久々に揺れ動く肉体から立ち上がってくる意識や空間に着目をした作品をみることが出来た。
 舞台全体に細かく切られた新聞紙が広がっている。ダンサーたちがゆっくりと座っているのだが、少しづつ動きだす。特に特徴のあるムーブメントや一定のフレーズを前に押しだすのではなく、ゆっくりとお互いが観応しあうように動いていくとそこから自然な肉体の動きが生まれてくる。ショートヘアーでボーイッシュな印象を与える長沼陽子がスピーディーに腕のフレーズを回転することで反復しながらゆっくりと動きを変えていくと江角由加はのびやかに大きく踊っていく。踊り手の動きとともに床に散らばった紙片も動く。その奥ではサウンドパフォーマーが打楽器を打ち鳴らしたり笛を吹いたりしている。立花あさみは光が射してくるなかで時に朗らかに時に情感たっぷりに明るく踊る。ゆっくりと変化していく動きと時の流れを楽しむような無駄を排除した簡素な美意識の作品だ。打楽器の動きが踊り手に絡むとかつてのノイエタンツのような効果も生まれてくるのだが、その響きは動いている肉体の像をゆっくりと取り囲んでいき踊り手の踊る空間や環境を立ち上げていく。演出に工夫がいるが屋外で上演してみても面白い作品かもしれない。やがて3人は連なりあってゆっくりと並んで座る。お互いに呼吸し合うようにもたれあったり、姿勢を崩し横になったりすることごくごく自然な表情をみせる。明るい空気の中で終演。空間や環境というテーマは立花の作品にも感じとることができるが普段ストーリー調の作品を踊ることが多い長沼や江角の新しい横顔をみることもできた。
 このグループは初見だが、このところみることができなかったダンス表現を展開している。作風はやや異なるがアンナ・ハルプリンや川村浪子が提案するような”環境や空間の知覚”といったテーマを肉体を通じて感じることができた。簡素でありながら明確な焦点を持つ美意識と現代性をどのように絡めるかが課題だ。

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