井上バレエ団「くるみ割人形」

 ダンスライターの間では12月というのは「くるみ割り人形」のシーズンである。バレエを大きく扱うライターたちの間では年末恒例のシーズン真っ盛りである。さすがに年末だけあり、日本全国でこの作品が上演され、関東圏でもライターたちは北海道、東北、中部、近畿・京阪と様々な地域を点々と取材するのだ。すでに牧阿佐美バレヱ団のこの作品の上演がはじまっている今日になって、私もこのシーズンになった。といっても華麗な業績を持つ先達、知人たちが日本の舞踊文化を記録するためにあちこち取材に東奔西走していることは頭が下がるばかりである。
 この作品は親子で見れるダンス作品であり、やはり何度見ても、いろいろな版でみても飽きないということができるだろう。この作品だけで次のような名著が出ているぐらいだ。
 

『胡桃割り人形』論―至上のバレエ

『胡桃割り人形』論―至上のバレエ

 著者は政治学者だが、バレエ史の研究者としても名をはせ、フランスでフランス人たちが見向きもしなかった資料を整理をして邦訳した業績はあまりに有名だ。数年前に若き日に指揮者を目指していた時期がある政治学者の草野厚が日本の劇場・ホール運営に関する行政を《オルガン》という視点から分析をして話題をまいたが、政治学からみてもこのような深い教養がある研究者はいるのだ。この国で文化政策、政策科学としてダンスを論じるのであれば、今でも舞台に立っている舞踊批評家・経営学者の浦和眞(うらわまこと)を上げることもできるだろう。私も先人に続いて文化科学・政策科学としてダンスを扱っている文脈がある。(参照:http://www.policyspace.com/2007/02/post_586.php )
音楽は充実しているのだが演劇、オペラも含めて広義にパフォーミングアーツに対して理解がある国であって欲しい。

 「くるみ割り人形」はこの国では戦前から現代舞踊でも上演されていた歴史がある作品だが、本格的なバレエ作品はやはり戦後からだろう。フォーサイスやキリアンといったコンテンポラリーな作品が注目をされる昨今だが、見るたびに気づかされることがある古典ということができるだろう。
 
井上バレエ団「くるみ割人形」(全2幕)
(*タイトルはパンフレットの表記に準拠)

媒体にてレビュー

文京シビックホール 大ホール)
芸術監督・振付:関直人、美術・衣裳:ピーター・ファーマー、指揮:堤俊作、演奏:ロイヤルメトロポリタン管弦楽団
ゲスト:藤野暢央
出演:宮嵜万央里(15日)、小高絵美子(15日)
(参考:田中りな(16日)、西川知佳子(16日) 他)