ダンスワークス

ダンスワークス公演
《 Voices 》

時は音と流れと共にただ前へと歩み続ける。人々の営みは太古より連なっていく。ダンスワークスの本年度の公演では人間世界の深層を表現した作品が上演された。
「闇の中の祝祭」は床に倒れている踊り手たちからはじまる。やがて舞台いっぱいに鍛えられた踊り手たちによる世界が広がる。音楽の表情に沿って展開するのはラインやムーブメントの切れ味に着目した群舞だ。シンメトリーなどを駆使した構成である。中でも鈴木麻依子のきめの細かい表情が見事だ。鈴木はチャーミングな容姿も人気があるが、踊りが切り出す世界に深みがある作家だ。男性舞踊手の中では川村昇のたくましい立ち姿が目立つ。明尾真弓が円熟したソロを披露したかと思えば、演技力豊かな山口智子を中心に西澤美華子と河口志保といったバレリーナたちが情景をきりりとまとめあげる。野坂公夫と坂本信子も共に舞台に立つ。ワルツは豊穣な旋律と共に世相のほろ苦さを洗い流していくような音楽だ。そのためか様々な時代と時代の変化の局面で奏でられ広く人々に愛されてきた。そんな旋律に肉体の動きが連なっていく。現代日本がおかれている苦境を象徴するような作品である。
「VOICES」は独白のようにつぶやき声の響きからはじまる。舞台いっぱいに一列に椅子に座った踊り手たちが現れる。肉体たちが織り成すラインは流れるように繰り返され、次第に変化していく。スモークの中から大貫勇輔が現れると上半身裸で見事な肉体美とエロスで魅せる。すると清純な池田美佳がほっそりとした肢体を活かして情感豊かに舞う。池田の傍らでは松永雅彦と小林由美恵が絡み合う。音楽のみならず照明も彼らの踊りを際立たせる。明るい彩りと共に河田真理がしっとりと踊ったと思えば、池田と大貫がアダージョで若い男女ならではの清らかな愛を描いた。
 このグループは音楽と舞踊の双方をテーマとしている。そのスタイルは戦後に生まれた表現だ。作家が「森羅」で見せたダンススペクタクルにも通じる深い渋味がある。近年海外でも活躍をしているが、その豊かな経験とレパートリーの広さを用いて新世紀の美学と次世代を担う踊り手たちを育み続けることが大切だ。現代文化はダンスに限らず70年代に通じるものがあると指摘をされることが多い。作家がその時代から試みてきた様式は現代の新しい社会の空気と入り混じりつつある。若い踊り手たちが放つエネルギーと情熱はベテラン作家の作風の中で高揚感を帯びてくる。鈴木や池田、そして大貫といった若き英才の溌剌とした表現は次世代をみつめている。その一方でベテランたちは時の流れの中でそれぞれがつちかってきた世界と共にすごしている。お互いの歩みの反響が世代を超えたスペクタクルを成立させていたように思う。野坂は着想を短時間に集約した作品が近年多い。かつて上演した「森羅」のようにこの作家ならではのスケール感あふれる作品とも再び接してみたいと感じさせた公演だった。

(10月 21日 杜のホールはしもと)


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ヴィム・ヴェンダースの「リスボン物語」を地で行くこの頃です。
落ち着いたらアンダーグランドもチェックしたいですね