小林紀子バレエ・シアター

小林紀子バレエ・シアター「コンチェルト、The Invitation、チェックメイト

ケネス・マクミアンはある意味で日本人好みの作家ともいうことが出来るだろう。イギリスと日本の共通する国民性や風土も背景にあるといえるし、近代的な教養によるセンチメンタルな世界ということも出来るだろう。
「コンチェルト」はイギリス的な風景の中な随想ともいうべき作品だ。「The Invitation」 は英国のパブリックスクールの中の男女の情愛を描いた。最後は女性の情念と性の葛藤が描かれるなまなましい作品だ。戦前の帝国主義の記憶が残っている日本だから受けたということもあるかもしれない。「Checkmate」は戦前の作品だ。ヒトラーの台頭を予期したといわれる作品でもある。赤の女王を追い詰めていく黒の女王の生々しさが描かれる。このグループは日本のバレエ団としては水準は高い方である。

新国立劇場 中劇場 7月15日)

「第53回 児童舞踊 合同公演」

児童舞踊の魅力は芸術舞踊のみにとどまらない世界の広さである。詩人や音楽家をはじめとする様々な芸術家や教育者、そして何より子どもたちが愛し育んできたジャンルだ。ここから巣立ち第一線で活躍をしているアーティストも多い。近年では島田明美・美穂、平多理恵子、塙琴、前沢亜衣子、そして永瀬訓子といった踊り手がシーンを彩っている。実際に接してみると「子ども」と「ダンス」のそれぞれに対する豊かな伝統を見出すことが出来た。
童謡の歴史を描き出したのは白ばらモダンダンスカンパニーによる「子どものダンスの100年の足跡と子どもの歌『ともだち』から」だ。江戸時代から「あめふり」、「赤い帽子 白い帽子」といった戦前、戦後の名曲と共にダンスが披露される。子どもたちの表情は明るくきびきびとしている。島田治子「ドレミの歌」はテレビに出てきそうな子供の世界だ。お兄さん、お姉さんと共に子供たちが音階にそって動いていく。現代のメディア文化との関連を思わせる作品である。
子どもの日常や遊びが織り込まれる作品も多かった。日本の子どもの遊びである折り紙を舞踊化したのは竹内邦子舞踊研究所「折鶴のファンタジー」だ。しなやかな身体の動きが日本の折り紙に喩えられる。蜂須賀紀子舞踊研究所は「こちらゆかいな窓ふき会社」窓拭きをユーモラスに、「馬っこさん」では仔馬たちを明るく描写した。若手の永瀬訓子も振付指導で健闘したようだ。
現代舞踊に通じる作品も多かった。平多正於舞踊研究所「東日流」は現代の若手たちの原風景とも言える表現だ。柿沢舞踊研究所の作品は幻想的なイリュージョンとも言うべき内容だ。「花の数だけ姦しい」と「小望月の下で」といった作品を2曲メドレーで見せた。妖精のような子どもたちのモダンバレエは見るものを別世界へと誘う。
子どもたちの鍛えられた動きと技術で魅せたのはかやの木芸術舞踊学園だ。「少林寺の庭」、「宇宙からの珍客ドッグピピー」といった作品では鍛えられた肉体によるアクロバティックな演技に客席が大きく沸いた。子どもたちの物語を描いたのがタンダバハ ダンス カンパニィによる「花のフェアリー」と「おやゆび姫」だ。大人から子供まで幅の広い世代がメルヘンを描いた。子供たちの活発な表情が心地良い。及川由香子ら大人たちも共に展開する。芸術性の高い作風は健在だ。
合同作品「夢の急行列車」では宇宙空間を機関車が走り出す。銀河鉄道の車窓には星たちや銀河の美しい女性たちが流れていく。最後は睦バレエ研究所の踊り手たちが明るく締めくくった。中でも睦亜美の溌剌とした表情が印象的だ。久保田利伸の心暖まる声の中でフィナーレとなった。
児童舞踊の歴史は古く明治時代にさかのぼる。童謡運動の時代には児童舞踊家は詩人や音楽家と共に活動を行った。日本人の日々の生活の中で愛されてきた舞踊文化でありそのさらなる未来が楽しみである。

(7月15日 メルパルクホール東京)