長い一日

 旧友と再会し、上野と竹橋で美術展をハシゴした。
夜は3幕物の古典バレエでした。その後、新宿で古い日本のダンス界について
知人達と話す。

エルンスト・バルラハ
ドイツの抽象主義を代表する彫刻家の展覧会。私は30年代のドイツについて調べていたためこの作家は表現主義の彫刻家で退廃芸術展で弾圧の対象になった程度しか認知をしていなかった。しかし初期の作品から見ていくと、実に絵画好きの青年であったことがわかる。今で言うと漫画やアニメに近いサブカルチャー的なテイストも若干ある作家だ。戦後のフラワームーブメントを先取りしたといわれている雑誌「Jugend」の表紙を書いているなどなかなか興味深い。絵画や彫刻でもポーズに興味があるようで、40歳を過ぎてから自分で台本を書いて演劇を上演している。舞台でパフォーマティヴに踊った経験もある私は苦笑をしながら台本を見た。
彼の仕事の中で重要なのはドイツの無名戦士墓地の為の彫刻作品を制作しているということだろう。一般的に共同体のシンボルとなるこのようなシンボルはナショナルで民族的な身体像が登場することが多い。しかし彼の仕事はそうではなく国家権力を批判するようなポーズや戦争を悲しむような表情がある。故に弾圧をされ作品はナチスによって破壊をされたのだが大変興味深く思った。

「大正・昭和前期の美術」

日本画から高山辰雄長谷川潔、まで近現代の有名作家の作品を展示した展示会。実際に初めて生で見た作品も多い。ただし展覧会そのもののコンセプトがあまり強く出ていないため明確な意識を感じることが出来なかった。日本画・絵画・工芸・版画といった諸ジャンルのモダニティを実際に見た。近代というと山本芳翠のような近代絵画の初期のスタイル、観音様に龍がのっているみたいなスタイルにいつも唖然とさせられる。邦舞の創作作品を見る機会がある昨今だが、そういう和洋の融和のような世界が以前よりは身近に感じられた。

(共に東京藝術大学美術館)

藤田嗣治

藤田嗣治の展覧会は初期から最後まで続けて実物で見れたので大変勉強になった。猫やいわゆる彼の描く女性像もさることながらとにかく圧巻だったのが彼の戦争画である。シンガポール陥落やアッツ島玉砕、サイパン島玉砕といった光景をモチーフにした作品のリアリズムは他の戦争画を圧倒する生々しさがある。戦後、藤田は動物や少女を描くが、戦争が嫌になったという印象よりは、戦争が終わったという抑圧からの開放を感じさせた。また表現が寓意に中心になったようにも感じさせられた。最後の時代の「十字架」や「最後の審判」の連作はクリスチャンになった彼の宗教世界とそういった世界が一体化するくだりがあり、非政治的には感じる事が出来ず、生々しいほど彼の主張が間接的に出てきているように思えた。

おまけ:

近代美術館の常設展は時間がなかったことから横切るように見た。下村観山など明治期の名品が幾つかありまた機会があったら見てみたかった。古沢岩美の「餓鬼」は大陸での日本軍の有様を感じさせる作品でストレートな告発に絶句した。古沢は作品に若干ムラがあるがいい作品はいい。村山知義のオブジェも生で見ることが出来た。

(東京近代美術館)

バレエ・シャンブルウェスト 第49回定期公演 「タチヤーナ」全幕

プーシキンの小説を下においた古典創作バレエ。このグループは全幕の古典バレエの創作にこだわりをもっている。プーシキンはバレエ化された文芸作品が多い小説家だ。この時代のロシアの芸術家に多い非常にロマンティックなイマジネーションである。
 解り易い筋にそって流れる世界と全体の作品構成は申し分ない。特に第一幕や第三幕の「グレーミン邸の舞踏会」のようなシーンは日本人が創作した古典バレエ作品の中では優れている内容だということが出来る。その世界を際立たせるためにも振付に工夫が欲しかったのも事実だ。
日本人が日本人らしい世界を狙うとすれば石田種生のように日本的な素材に基づいた作品を作る事が1つの方法だといえる。古典作品を振付ながら実に緊張感のある振付を見せることが出来た作家の中に高橋彪を上げる事が出来る。高橋の作品にはなぜ古典バレエで創作するのかという意識がある。こだわりはわかるのだが今一歩さらに踏み込んで欲しい。
第一幕後半や第二幕のデヴェルティスマンではスタンダードなムーブメントが目立つ分、幾分視覚効果や緊張感がある部分が入ってくると優れた世界になるといえるだろう。
 踊り手としての川口ゆり子、今村博明の演技は円熟を見せ味わい深かった。大作を発表し続けているということは評価に値するため今後の展開が気になるところだ。

新国立劇場小劇場 中劇場)