Dance Venus presents 「一周年秋の夜長 アパートメントNo住民Tachi・・・」

 武元賀寿子が率いるDance Venusがこのスタジオで定期的に活動を
初めて1年が立つ。これまで即興大会やキャストの数が観客より多い会など様々な
設定があったようだ。今回はゲストに妻木律子を迎えて公演だがジャムのように
も見える味わい深い舞台が繰り広げられた。
 高橋咲世、渡辺久美子、東奈緒美のトリオによる実に感性がシャープな作品
から舞台が始まる。3人の女性ダンサーたちが大きく動き時折コンタクトをしあう
ような動きから入るのであるが、次第に動きはそれぞれの肉体の形を描くようにな
り、3人がかがむ姿勢で直線になり、全体で少しづつパーツを動かすような形態美
を見せるようになる。例えば同じ形態美でもROSASに影響された様な日本の中堅作
家達のパターンや形態美とも一線を画する。彼女達がどうしてこのパターンにた
どり着いたかが興味深いがとても若々しい世代のものだ。近年次第に知名度を上
げつつあるピンクやお宝といった2005年の二十歳前後の踊れる踊り手たちが描く
作品にも通じる感覚がある。この知的な作風は、野村真弓や川村真奈といった感
情表現を得意とする作家にもない。ダンス概念そのものや世界に対して批判精神
が出てくると大きく伸びるはずだ。特に東の切れ味あるユーモアと決め所をはず
さないセンスがくっきりと心に残った。
 やがて演劇出身の征矢かおるが現れ「異星人」として渋谷近郊の地名を並べて
シリトリをはじめる。次第に異形の踊り手たち勢ぞろいをすると、同じく演劇出身
の岡庭秀之が現れ、舞台には「枯葉」がいっぱいと、歯切りのよい
せりふで客席を沸かせる。この作家は8月の新国立劇場でのパフォーマンス同様に豊かな
表情とせりふが大きな魅力である。東京近郊の小劇場で活動する武藤容子や征矢が
コント調に掛け合ったり、それぞれがパフォーマンスで笑いを取り作品と作品を
つなぐ中でそれぞれの作品が上演をされる。
 舞踏出身の伊藤虹と竹内静香による「葉っぱの下の宇宙」は狐の面をかぶった二人
の踊り手のデュオである。竹内が手に葉っぱをもちながら2人が時には男女の世界
を描き、時には儀式的に情景を綴る。伊藤は舞踏にはそれほどこだわりを見せないが
竹内の動きと調和を見せながらもポーズを中心に動きを展開した。
 加賀谷香と佐藤昌枝「耽る」では佐藤の成長が印象的だった。2人の女が思いに
耽るようにそれぞれに情景を描き時折お互いに向かい合う。加賀谷の内面を描く
表情はベテランならではのものだが、佐藤はここ数年の舞台になく成熟し、自身を
描くことが出来るようになってきた。
 それぞれの作品の途中には武藤や冒頭の3トリオが入り、シャープに、ユーモラス
に作品をつないでいくのであるが、そんな中でも活躍を見せていたのがナオミ・ミリアン
だ。この踊り手はダンサーとしての肉体と共に旅芸人のような味のある俳優的な世界が
ある。帽子をかぶり、遠くをみつめるような表情でそっとつなぎのシーンに入り、そつが
ない演技と共に消えていくミリアンのキャラクターは実に興味深い。
 そんなミリアンのソロ「タータ」(写真)はそんなキャラクター性質と深みが
映えたソロだった。遠くを見るような瞳でちょっとおどけた表情をした踊り手が
味わい深い世界を大きく描き始める。演劇的な見せ方で作品を見せるかと思うと、
いつもは踊れる踊り手としてみせる鍛えられた肉体を駆使して、アクセントのきい
た踊りを見せる。よりシャープにムーブメントに集中をすることで効果を高めるこ
とが出来る作品だが、前半の演技が作家のとぼけた表情を映し味わい深いものにしていた。
 その一方で対照的に演劇的な作風が実に活きていたのが庄子美紀と岡庭のデュエット
「秋味」だ。2人の男女がお互いに肉体を通して感情を演じ、次第にコンタクトなどを
活かしながら濃密な世界を描いていく。庄子は「Lemon-ed」などDanceを中心に於いた
作品を作る作家である。しかしその一方で舞踏の玉野黄市や時々自動など演劇的な
要素のある作家たちとも活動を共にしている。いわばダンサーとしてスタンダード
な作品を踊って作れる作家であるがその一方で演技や肉体の細部の表情を活用した
表現も出来る作家である。この岡庭との作品では濃密な演技が密度の濃い情景を
作り出す事に成功をしていた。実は多くが即興であったということを後から聞き
驚かされた。
 最後を飾ったのが武元と妻木による「Ha-Ru・響く秋・満ちて・溢れる」だ。
腕に実った稲をいっぱい抱えた武元があらわれゆっくりと前進をすると、反対側
から妻木が直線的な動きを見せていく。同世代のベテランダンサーの動きが対話
をする背後にはバッハが流れ拡張の高い空気が流れる。妻木が活動をする宇都宮
の情景を髣髴とさせる。無心に踊る2人の世界は実に自然体でほほえましい情景だ。
 やがて出演者がそれぞれそんな2人の掛け合いに加わり舞台は大団円を向かえ
終演する。伊藤虹は大野一雄系列の舞踏家らしく稲を持ちながら全体で画の
ような硬質な動きを見せる。と、その稲を受け取った武元がダンスを演出する
要素としてそれを使うといったダンスに対する姿勢の違いも見ることが出来
大変興味深い。
 DanceVenusは鍛えられた踊れる踊り手たちの描き出すテンションの高い舞台
という印象がある。しかしこのような会を見てみると、実に幅の広いレパートリー
の広いグループであるようにも感じる。即興のセッションとして知られる
黒沢美香の「偶然の果実」シリーズやNeoから若手作家が巣立っていく木佐貫邦子
のグループと比べてみても、時折チェックをしてみると意外な組み合わせや
興味深い実験と出会えるように思う。モダン、コンテ、舞踏といったジャンル
にとらわれない活動が織り成す実験は気負わず明るい事がいつも印象的だ。

(於 渋谷 Studio Ha-Ru ソワレ)

Photo:上野昌子(Ueno Masako)