DanceVenus,橘るみ

 社会的には久々の政権交代が話題だが、10年前とくっきりと国内外の状況が変わってきたことを感じるこの頃である。社会的にも情報化や政策社会といったキーワードは浸透しつつあり社会的に新しい方向性が気になるところだが、舞踊界も次第に変化が見えてきている。



Dance Venus「初めの一歩:会」その6

 DanceVenusの初めの一歩:会は今回も盛り上がりを見せた。この企画ではこれからシーンに飛び出していく新人たちの初舞台からベテラン達がアンデパンダンに実験的なことと取り組む姿まで様々なタイプの作品を楽しむことができる。今回で6回を重ねることになった。
 新人が芸術舞踊に挑む姿勢は新鮮だ。染谷美佐子「生けどりの花」は植物をイメージさせる色調の女性が空間の広がりを活かした構成と束縛させれた感覚を反映させたムーブメントから緊張感のある作品を描ききった。荻野康代・岡村愛子「デュオ(二人の関係?)」は白黒のダンサーたちが背中でもたれあっているところからはじまるアートダンスだ。いずれもオーソドクスだがはじめの一歩としての持ち味がでていた。
 演出で盛り上げるタイプの作品も目立った。内田良子・福田奈見子「Neighbor Ver.4」ではドレスを着た女達が華やいでみせたし、三宮かほる・川上ひろみ・千葉京子「joyeux femmes」ではパラソルを片手にした南国の朗らかな午後を描いた。いずれも若々しいダンサーの持ち味を演出を通じて活かしていくような作品だ。
 全体を通じて活躍を見せたのは白髭真二だ。「Sunlight/Darkwing」はソロダンスである。黒系の衣装を着た男がさっそうと身を走らせる。鍛えられた肉体の持ち味が活かされているが舞台空間全体を良く使うように構成をすることも重要といえる。白髭と山井絵里奈の「before zero and one(0が1になる前)」では二人の関係の拮抗を活かしながら緊張感のあるデュエットが繰り広げられた。抽象的なコンセプトを明確に打ちだすことが課題となる。楽しみな才能の一人であるためにこれからの活動に期待がかかる。
 DanceVenusはダンスから演劇まで幅の広い表現を吸収しているグループだが、新人ダンサーの持ち味をその作品に活かすとなると、作風や方向性ががっちりと定まっている部分がある。しかし主宰の武元賀寿子は彼ら彼女たちの感覚を活かしたり新人ならではのブレをポジティブに転換していくところがあり、そこが見ていてあきない。新しいダンスは常に試行錯誤から生まれてくるのである。
(9月5日ソワレ 6日ゲネプロ



第6回橘るみバレエスクール公演 with オーケストラ

 今年の橘るみバレエスクール公演では「ドン・キホーテ」ハイライト版が上演された。オーケストラもオリジナルで橘るみフィルハーモニックオーケストラが演奏することでも知られている。今年は東京シティバレエ団や谷桃子バレエ団からのゲストが出演し舞台を彩った。
 「ドン・キホーテ」ではクライマックスの第三幕のGPDDで三木雄馬のスピーディーでシャープな印象の強い動きと橘のクラシカルな持ち味が見事に活かされた。互いのパートナーシップも良く旬な二人の踊りに会場は盛り上がりをみせた。ゲストダンサーたちもそれぞれに活躍を見せたが、次代を担うスクールの生徒たちと皆で一つの舞台を作り上げたことは大切なことだ。
 ポピュラーな演目も多く上演されたが、今年印象に残ったはジャズを活かしたモダンな創作作品たちである。「Jazz・Ballet」は若きバレリーナたちが軽快なメロディと共に溌剌と踊って魅せた。さらに「未来を笑顔で照らせば」は古き良きミュージカルやブロードウェイの作品たちに連なるようなムード感あふれる力作となった。橘の中にこのような感性が宿っていることはとても興味深い。シックな持ち味を活かしながらこれから探求して欲しい地平だ。
 現在、このアーティストは総合的に最もアクティヴに活躍しているバレエダンサーの一人ということができるだろう。東京シティバレエ団のプリマとしても活躍をしているが、自身のスクール公演、さらにはオペラや映画での活躍、DVD付の書籍の出版、新しいバレエ・コンクールの立ち上げなど活動の幅の広さには驚かされる。バレエ界のみならずこれからが楽しみな存在である。
(9月6日 かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール)