Nutrition Facts 幸内未帆

Nutrition Facts 幸内未帆

―作家の新しい横顔を感じた公演―

 ポップで明るい作風に作家の新しい横顔を感じた公演だった。
「TuLIP the Flower」は少女の成長を描いた作品。背景に子どもの落書きのような映像が流れる。チューリップが芽吹き、生長をしていく。舞台の上には少女のような幸内美帆や平松歌奈子をはじめとする少年、少女が現れる。竹村延和のアルバム「Child’s View」やそのレコードジャケットを手がけた人気イラストレーターのKikuchi Kimieにも通じるような世界だ。ポップな作風はこれまでこの作家にないものである。これまでこの作家になかったようなタッチには驚かされたが、多くのオーディエンスには入りやすかっただろう。素材として用いている様々な年代の東京を生きる女性たちの身体だ。職業ダンサーだけではない多様な素材からは一昔前にTokyo Styleなどという言葉で形容された明るいコンテンポラリーダンスのタッチを感じさせそれがやや懐かしくも感じられる。
「バースデイズ」は今回大きく改訂した。女の一生をモダンダンス的ではなく様々なシークエンスを組み合わせることで見せていく。闇の中から様々な経歴をもった踊り手たちが現れると、時間が流れ始める。山崎千津子の表情には踊り手が経てきた時間が現れている。山崎の上には羊水を思わせる映像が投射される。すると舞台背景に水の流れも流れ出す。幻想的な背景の中で、老女がミシンをかけたり、乙女が結婚式をむかえたりする。深みのあるイリュージョンのような作品だ。
両作品ともヴィデオダンスの使い方はうまかった。そろそろメディアパフォーマンスも普通になってきたようだ。作家が得意とするシャープなムーブメントとは異なるタイプの作品である。またスタンダードな90年代以後のコンテンポラリーダンスのナンバーともいえる。感覚的には現在の20代、30代に訴えかける。モダン=コンテンポラリーの矢作聡子やバレエのキミホ・ハルバートのような中劇場、大劇場で仕事をしているタイプと異なる作風だ。短時間の作品では水準の高い作品をつくるが、長時間の作品にそれほど慣れていない彼女達と比べると、ダンサーの技術はそろっていないが長時間でも見せることができ、また入りやすい作品である。この手の作品は、コンクールで活躍をしている踊り手が多い作家たち、例えばダンスカンパニーカレイドスコープやRoussewalzの踊り手には出来ない持ち味がある。彼女たちがユニゾンなどを駆使してまとめてしまうような下りも、けっしてテンションの高い高度な技術が必要なムーブメントではないのだが、この振付家はライトにまとめてしまう。コンテンポラリーダンス矢内原美邦の様に強くモダンダンスを意識した作風でもなく、ごくごく自然な作風である。作家にとっては多様な素材と自身の振付、そして様式を結びつけていく何かが必要に感じた。
( die pratze 神楽坂 9月15日)