ローランプティ 「こうもり」 新国立劇場バレエ団

 言わずと知れたプティの代表作の1つ。最終日のキャストはベラを期待の湯川麻美子が、ヨハンを山本隆之が演じた。ウルリックは長年プティの作品に出ているルイジ・ボニーノである。原点はオペラの「こうもり」であり、プティのバレエ版では内容も多少変化する。夜な夜なこうもりになる夫を見かねた妻が変装をして夜遊びをしている夫を誘惑するというコメディだ。倦怠期を迎えた夫婦が愛を取り戻す物語である。
 遊び人の怪しい空気を山本は上手に演じたが、注目すべきは湯川の演技だろう。特に変装した妻にヨハンが詰め寄り、逮捕をされていしまうとう第2幕5場では夫の裏切りに対して悲しみながらも女を取り戻していく姿を初々しくも立派に踊って見せた。舞台全般を貫くのはジャン=ミッシェル・ウィルモットによるセノグラフィーだ。ウィーンのナイトライフの演出もさることながら、第2幕の庭園のような色彩豊かで心象風景に訴えかけるような場面はことに心に残った。
プティはシェーンベルクの「ぺリアスとメリアザンド」にも振付けている。日本でこのタイトルで知られているのは高橋彪の作品だ。このように戦後の作家による作品という事を濃密に感じた。この作家はコンテンポラリーダンスのファンにも桜井圭介の影響か愛されている。軽快な音楽にそって展開する踊りはバレエ作家にありがちなバレエのみを探求するスタイルではなく、ポップカルチャーにも通じる接点があってよい。だが現在の日本の若手作家の、解る人だけ解ればいい、オタク的な空気と比べるとエスプリの質に若干の厚みを感じるのも事実だ。プティはジョセフィン・ベーカーのような30年代のパリのレビューに影響を受け、後にベーカーも踊った劇場を買い取っている。パリの流行は世界の流行だった時代から、戦後のフランス文化、ゲンズブールも現れたというクラブTabooに代表されるナイトライフまで幅広く様々なものを吸収していることを感じる。
 現代バレエにおいて金森穣も服部有吉もまだ若い才能でありここまでの深みを持つにいたっていない。高橋や厚木凡人のような作家は世代論に還元できないが層の厚みを持っている。オタクや「萌え」といったベクトルを志向したり、仲間内で盛り上がっているようなコンテンポラリーダンスの若手作家たちにもヒントになるはずだ。

(5月28日 新国立劇場オペラ劇場)