ジャン・バティスト=アンドレ、加藤みや子

PHOTO:萩原健一

( HiDDEN FACES / FACES CACHeES / 隠された面 )ジャン=バティスト・アンドレ青木孝允松本典子

フィリップ・ドゥクフレ「IRIS」に出演したジャン=バティスト・アンドレ
が2年ぶりに山口に滞在し製作した作品。
会場前から森下スタジオにはお香が焚き染められている。舞台美術は宙に浮かぶ白い
球と白いリノ二ウムである。闇の中から天使の羽をつけた男が現れる。男は決して
正面を見ることなく、床に伏したり、グリップをいかしながら回転をしたりしながら
動いていく。大らかで伸びやかなムーブメントである。胴体を宙に浮かしながら床に
反転をしたり、両足を大きく踏みながらアンドレは動く。デュフクレ作品ではアクロ
バティックな動きが評価をされたが、本作ではそれほどアクロバティックではない。
むしろリリース・テクニックやコンタクト・インプロヴィゼーションといったポストモダン
から現代にかけてのダンステクニックである。特殊で個人にしかできない動きという
よりはグローバリゼーションの現在らしい、世界共通の動きだ。そんな踊り手が
移動をするバックには自然の音やそれをアレンジしたようなやさしい青木考充の
音楽が鳴る。エレクトロ・アコースティックという意味では決して斬新な音ではないが
ゆったりとしたソフトな音のイメージはお香が充満している空間に合う。白い床や
球状の装置には松本典子の映像が映し出される。自然のイメージを多用したイメージ
は舞台映像というよりはメディアアートからの影響を強く感じる。音同様に
ソフトな印象だ。そんな舞台演出の中で踊り手が動くと、初期のDadaや構成主義
バウハウスのパフォーマンスに近いような効果も見られた。例えば踊る肉体の上
に球状の舞台美術があるだけで舞台は構成主義のような効果を生む。やがて踊り手
が風鈴を手に取り、それを鳴らすと青木の音も日本的な世界を奏でる。
あわせるように松本も日本的な照明を舞台にあてていく。すると舞台はさらに
変化を見せ、日本の空間デザインのようにも見えるようになる。
 青年の空想のような甘い情景である。せつなく磨きこまれた青年の世界
は時にまどろっこしくもシャープだ。そんな持ち味がある舞台だった。
 仮に日本人ダンサーが同じ設定で踊ると、同じような現代ダンスの技法を用いても
間合いをつかったり空間構成を精緻にすることで、踊り手の動きにイントネーション
を与えるだろう。伸びやかな動きを中心に作品を見せたということがフランス人
の踊り手らしいということも出来る。精神性の高さはこの踊り手が日本で得た世
界を現している。舞台装置や演出に見られる東洋的な風景がさらに昇華をされて
くるとなお良いように感じる。

(森下スタジオ)

PHOTO:萩原健一

加藤みや子「Wave」、「夢のかたち +volII-傾く空-」

音楽舞踊新聞にてレビュー(予定)

(全労災ホール スペースゼロ マチネ)