TOKYO SCENE 2005 70年代的 9月25日

TOKYO SCENE 2005 70年代的 9月25日
感傷的な70’s:Tokyo Scene最終日

Be-JaM「あの日の頃(即興のための即興)」

創作・出演:植村玲子

会場が暗転をすると、遠い空間にスポットライトが落ちライトアップされた
空間が生まれる。遠景に光を望みながら植村玲子がゆっくり
と踊りだす。和を意識した音に沿って植村はグラハムテクニックや日本
のモダンダンスの表現技法を用いて踊る。
会場の空間の片隅で踊るため、広々とした空間をうまく使えていない。
そのため緊張感に欠ける作品となった。

Kaoru&T.D.T「”キ”を発火点とする即興的時空」

発案:石井かほる
音楽:木の音、生活の音などをベースにした即興者の音楽
出演:Kaoru、斉藤マヰ、安藤美里、中村陽子、田邊浩子

ギャラリーを展覧会のように使い4つの踊るスペースを作り、
オーディエンスが自由に行き来が出来るように設定をしてある。
サングラスにタンクトップ、サイケデリックな衣装という石井かほる
が登場し、それぞれのメンバーがレトロなファッションで登場し
ワクワクする世界がはじまる。中村陽子と田邊浩子は濃厚なメイクに
サイケな衣装で頭をがんがんシェイクしたり、震えるように動く。
と、目覚まし時計がなり安藤美里が起きては寝るというしぐさを反復する。
もう1つの別の空間では花をにらんで石井が叫んだりはねたり、
巨大ボールと遊んだりといった子供を意識した動きを繰り返す。
ビデオゲームスーパーマリオブラザーズを思い起こさせるような
ファンタスティックな世界だ。
斉藤マヰはそんな世界をうろうろと動き回る。サングラスをかぶった
石井が歓声を発するようなニコヤカな表情で手足を大きく動かすと70年代的
な空気が場内いっぱいに充満する。70年代を生きてきた作家の空気である。
そしてそれから30年たった石井かほるの今現在のリアリティ。
ワクワクどきどきした空気と異様な空間である。

石井かほるという人は石井漠の「アニトラの踊り」を踊ることが
許された最後の継承者なのだが、目前の21世紀をおそらく予想は
しなかったであろう。

萩谷京子&Ra.coon「Neutral」

作・演出:萩谷京子 美術:護阿房
出演: 山岸マリ、藤井芳子、島田良美、平井幸、谷藤陽子
    萩谷史 他

懐かしの70年代を知る作家、そしてその70年代を知らない若者たち。
萩谷京子の作品にはそんなユーモアがある。
白い衣装を着た山岸マリが現れ、ゆっくりと椅子に腰掛ける。
やがてソウルフルな音にあわせて鍛えられた肉体でダイナミックに
踊りはじめる。叙情的な旋律に沿って感傷的な空気がギャラリー
に立ち込める。やがて萩谷が活動をしている茨城の民謡が流れ
だし、ダンサーたちはそれぞれにモダンダンスのテクニックを
使って踊り始める。土俗の空気とモダンダンスの動きという
トラッドな手法だ。
そして女たちは独り言をそれぞれが口づさみ騒ぎはじめる。
ノンポリ」など70年代の学生運動の最後を象徴するような会話の
断片が懐メロのように響く。そしてダンサー達は舞台いっぱいに
広がり、それぞれが感情を弾き出すように舞台を踊り描く。
特に平井幸のしっかりとしたテクニックと演技力が目を引き
印象的だった。平井も山岸もコンクールで確かな実績を持っている
実力派である。機会があれば東京でまた見てみたい作家達だ。

70年代は長谷川六がコンセプトシートでデボラ・ジュイットを
引いているように50年代、60年代の蓄積を使ってきた時代だった。
現在はちょうどリバイバルの様に70年代の遺産を使い出している。
当時二十歳だった踊り手も50才、60才となり、それが現在の若者
の手本となっているとも言える。
特に本日上演された作品はいずれもモダンダンスの技法を用いた
作品が多く、当時の舞台を思わせる空気が強かった。
70年代、それは日本の戦後の現代舞踊が大きく成熟した年代であり、
江口隆哉、高田せい子といった創世記を創った踊り手達が他界をし
た頃である。コンクールでは70年代中場以後になると、黒沢美香、
馬場ひかり、木佐貫邦子、武元賀寿子など多くの踊り手たちが活躍
をはじめる。戦前と戦後が丁度クロスオーヴァーした大きな岐路と
考えることもできまいか。
そしてそんな70年代から80年代に生まれた踊り手たちが若手、
新鋭の作家として台頭をしだしている。舞台で70年代の空気が
強い理由はこんな背景があるのではないか。
現代のコンテンポラリーダンスも第二世代が生まれ、コンテンポラリー
ダンス以後といえる未来の舞踊を望みながら大きな岐路に立っている
といえるだろう。

ところで長年行われてきた名企画TOKYO SCENEはこの公演を持って
終止符を打つこととなった。ジャンルを問わず様々な作家が作品を
持ち寄ったこの企画がなくなってしまうことは本当に惜しいことである。
しかし現在の20代、30代の手でこのような企画を立ち上げていくことも
重要といえるのではないか。

(元麻布ギャラリー)