宇宙開発と舞踊

天空の舞踊家を振付けるために:宇宙文化と舞踊

 Space Artというジャンルが海外でもメジャーになってきていますが、国内にも宇宙開発とダンスの関係について取り組んでいるプロジェクトがでてきています。そのうちの一つといえる飛天プロジェクトの成果報告を兼ねた舞踊公演が新国立劇場小劇場で行われました。
 石黒節子の「散華の瞬間」はこれまで発表されてきたパーツや映像に基づく作品です。飛天プロジェクトでは国際宇宙ステーションで宇宙飛行士が踊るというプロジェクトを行ったのですが、その着想の原点にあった敦煌の壁画や日本の飛鳥時代の飛天図から得たイメージを舞踊家した作品です。管野真代や斉藤友美恵が活躍を見せました。
 この企画は最終報告を兼ねています。その目玉は若田宇宙飛行士が宇宙空間上で踊るまでの映像です。これまで平山素子と黄凱が飛行機を使った無重力実験で”プロフェッショナルなダンサー”として踊りを見せるという映像は公開されてきました。今回は”いわゆるプロフェッショナルなダンサーではない”宇宙飛行士を対象に舞踊作品を振付ける作業や宇宙空間にいる実演家のメイクアップについてといったことも紹介されました。宇宙ステーション上にステージを組み、そこで宇宙飛行士が与えられたイメージと動きを踊るのですが、地上で出来ない動きをみせていきます。座禅のように座りながら足と足を重ね合わせてみたりするシーンは、地球上ではバレエダンサーが跳躍とともに瞬間的に見せようと限りなくみせようと努力をするような動きで、無重力状態で宇宙飛行士がみせているというのは興味深い姿です。バレリーナがポワントで踊ることからして舞踊は重力と密接な関係があります。無重力空間では地球上のダンサーの身体のコントロール方法では動きをコントロールできないこともわかり、また新しい表現の可能性も広がりそうです。
 石黒はインドのシヴァ神が空中で踊るというアジアの神話のイメージをこの作品の原点ともいえるイメージの一つとして用いました。そんな神話の古代のイメージが21世紀世界の中で実在のように現実化したような印象をもたせるような映像でした。作品のモチーフの天女はシルクロードという東西文化の交流ともつながり、広くグローバルに世界の文化や宇宙文化を考えることにも通じるように思います。
 このプロジェクトはJAXAが宇宙文化、宇宙芸術を日本からフロンティアとして切り拓いていこうという試みの一環として実現しました。宇宙空間での上限芸術のみならず、身体文化や身装文化まで幅の広い射程を持ったプロジェクトといえます。大変興味深い成果報告でした。

新国立劇場 小劇場)