10年代最初のバレエ

新国立劇場オペラ・バレエ ニューイヤーオペラパレスガラ

 年の初めを祝い彩るバレエのステージと来れば断然ニューイヤーオペラパレスガラです。新年の空気もまだ抜け切らない今年も多くの観客が新国立劇場につめかけ盛り上がりました。実質的に10年代の最初を飾る代表的なオペラ・バレエ公演と言っても過言ではないでしょう。

 「グラン・パ・ド・フィアンセ」(新制作、振付:ジャック・カーター、ステージング:牧阿佐美)はジャック・カーターが1960年にイギリスで初演した作品です。バレエ「白鳥の湖」の第三幕の「パ・ド・シス」の踊りの音楽を用いているため、オリジナルのチャイコフスキーの音楽のポピュラーなフレーズから普段バレエに接していない観客に対しても入りやすくまたメッセージ性があり、さらに全体を通じて踊りの醍醐味を楽しむことができるという優れた作品です。牧阿佐美のセンスと英国バレエに対する理解を感じることができます。またカーターを招聘したこともある牧にとっては思い出深い作品といえるでしょう。6人のテレプシコールたちがそれぞれに踊りを披露し最後に皆で締めくくるのですが、溌剌と朗らかに踊る長田佳代と丁寧に清らかに舞う小野絢子に注目したいです。寺田亜沙子と伊東真央の二人の新人のこれからも本当に楽しみです。AMスチューデンツ出身のさいとう美帆と新国立を代表するバレリーナの一人といえる本島美和も新年を祝うように明るく踊りました。
 続く「こうもり」より《グラン・カフェ》はローラン・プティの代表作の1シーンです。浮気な夫ヨハンに対して妻べラが家庭に平和を取り戻すために謎の美女に大変身して現われたちまちとりこにしてしまうという1つの見せ場です。普段バレエに接していない人も楽しむことができる作品といえるでしょう。妻が家庭に平和を取り戻すため変身する謎の美女を清楚さ艶やかさを兼ね持つ堀口純が、浮気な夫をベテラン山本隆之が描きます。妻を助ける友人ウルリックは八幡顕光が演じました。
 愛を巡る駆け引きの合間にはフレンチ・カンカンやギャルソンの踊りが加わります。カンカンでは寺島ひろみの今一番の充実した表現と官能美、円熟をしてきた厚木三杏のベテランならではの持ち味、そして西川貴子の軽やかな踊りがそれぞれ舞台を盛り上げました。

 第二部ではオペラの名シーンが繰り広げられます。中でもノルマ・ファンティーニのソプラノと堀内康雄のバリトンを楽しむことができました。演奏は一部二部ともに東京フィルハーモニー交響楽団、指揮はバレエ・大井剛史、オペラ・菊地彦典というラインアップ。10年代の日本のバレエの幕開けともいうべき一夜でした。

 来年、2011年は帝国劇場開幕(1911年)から数えて洋舞100年の節目にあたります。今日の舞踊のみならずオペラも音楽も充実した環境を帝劇で活躍をしていた時代の芸術家や批評家、関係者が見ていたらとしたらどのように感じるでしょうか。20世紀初頭の先端文化だった歌劇も洋舞・洋舞も一世紀近い時の流れと伝統の中で大きく発達を遂げました。97年以来、島田廣、牧阿佐美とこれまで築いてきた礎はさらなるこれからの10年の間にどのように成長を重ねていくことになるでしょう。これからの10年はバレエにとっても現代舞踊にとってもまた大きな変革の時代になるかもしれません。社会的にはバレエブームとも時期的に重なってしまうのですがいわゆる”失われた20年”の最中にある中にあり、この国も新世紀ならではの社会変動の真っ只中にあります。確実にまた大きく時代が変わりつつありバレエ・ダンスもまたさらに大きく変わっていくことになるでしょう。そのこれから先の半世紀を見守りたいです。

新国立劇場オペラ劇場)