現代舞踊展

東京新聞主催 第36回現代舞踊展 

 今年の現代舞踊展は身体表現の諸相を感じさせる内容だった。電子メディアがことに発展を重ねる近年だが舞踊は忘れがちな人間性や身体表現の原点を思い起こさせてくれる。現代舞踊の最先端からシーンで若者たちの姿まで幅広く楽しむことができた。
加藤みや子の「テーハ・ヴェルメーニャ(赤い土)」は南米の風土をテーマにした作品だ。現地のダンサーを用いながら荒々しい大地を生きる人々の感情に挑んだ。生活の場を抽象的に描写したり、厳しい現実の中で喜怒哀楽をみせる民衆の姿を切りだしていく。新世紀の舞台表現の質感を用いながら丁寧に今日の舞踊の姿を提案してみせた。石黒節子「化身」はコンピュータグラフィックスの第一人者の河口洋一郎の映像を駆使した作品だ。舞踊芸術へ演出の面から新しい試みに挑戦をみせた。ドラマティックな本作では斉藤友美恵が充実した踊りを披露した。加藤と石黒の現代に対する提案は興味深い。
ベテラン作家たちも往年の持ち味で盛り上げた。森嘉子「フリーダム、遠い夜明け」ではブルージーな歌声の下、男と女たちが朗らかに踊る。このアーティストが確立した確固たる世界だ。さらに若松美黄の「豚インフルエンザの歌舞」は日本中世の舞踊と現代の社会問題を重ねたコミカルな作風である。社会問題をユーモラスに舞踊文化と結びつけていく感性は重要だ。また佐藤典子は「ロダン組曲」でシャープな作品を披露した。彫刻作品やこのアーティスト自身を描く身体表現が舞台いっぱいに繰り広げられる。特に宮地永の可憐な表情が際立っていた。
 シーンで活躍する若手たちも活躍をみせた。真船さち子の「Wrist 奇想曲」は桑島二美子を中心に抽象美術の下でダンサーたち盛りあげた。抽象的な主題と近代舞踊が壮大な世界を描きだした。千葉典子や船木こころの表現は見逃せない。中條富美子「Channel」は北島栄を用いながら若手舞踊家の動きの質感を活かした優れたテイストを打ちだした。田中いづみの「円舞踊曲は続く」では赤い踊り手たちが華やかに舞った。バレエ音楽と踊りの接点に工夫が欲しくもある。坂木眞司・佐久間尚美「沈黙の光」はモチーフを明快に描くこと課題だがこれまでにない作風は二人のさらなる可能性を感じさせた。
 不況の中とはいえこの国の舞踊家たちは熱く活動を重ねている。未来を切り開いていくのは彼らのエネルギー溢れる精神と肉体なのだ。

(7月11日 メルパルクホールTOKYO)