志賀育恵

東京シティ・バレエ団 「ラフィネ・バレエコンサート」

 東京シティ・バレエ団のこのバレエコンサートは春を彩る公演だ。今年から安達悦子が理事長に就任した。さらなる展開に期待がかかる。志賀育恵と橘るみという2人のスターダンサーをプリマに迎え、男性陣も才能が集まり充実してきている。
 冒頭を飾った「パキータ」は第二幕の舞踏会の場が上演されることが多いバレエならではの作品である。志賀育恵は感覚がさらに磨かれ良質な表現を描くようになってきた。対する黄凱も充実した踊りと表現で盛り上げる。ミンクスの音楽と金井利久の再振付(プティパによる)が若手ダンサーたちの表現を演出してみせた。
 そして男女の姿を描いた作品が3作品続く。「『フィジカル・ノイズ』より」は中島伸欣の作品だ。男女の関係をアダージョやこだまする音像と重ねて力強く描き、時に淡くにじませていく。空間演出や音楽を効果的に使いながら交差する二人の精神世界を描きだす。薄井友姫とKinBoYounが好演をみせた。小林洋壱の「Without Words」は魅かれあう二人(志賀・ChoMinYoung)の感情の高まりにマーラーの旋律(交響曲第5番より「Adiagietto」)の清らかな部分が重なり合うという、精神性を重んじるこのダンサーならではの好感を持てる作品だ。振付言語は新しい世代のものだが、音楽の旋律と踊りを重ねてバレエならではの味わいを引き出してくる。音楽や肉体に対して新世代ならではのオリジナルな提言が切りだせてくると自らの作風の確立へとつながるはずだ。「『ロミオとジュリエット』より」では中島版の1シーンを橘るみと黄凱が踊った。プロコフィエフの豊かな音色と旋律に沿って踊る橘の姿が映える。このところドラマティックな作風の作品で踊ることが多かった橘だがその本領発揮は古典的な持ち味の作品である。鮮やかな感覚が印象的な踊り手であるためこれからが楽しみだ。
最後を締めくくった「ジプシーダンス」(石井清子振付)はこのバレエ団が得意とする民族舞踊を活かした作品だ。踊り手たちが身体を使って遊ぶような溌剌した表情が目の前に広がる。素朴で民衆の持ち味が色濃い独特な中欧の芸能やロマの踊りといった世界にも迫れる作品であるためさらなる展開も狙えるように思えた。
春の盛りの5月らしい陽気とその中で生きる若者たちの姿が印象的な会だった。

ティアラこうとう 大ホール)