今月のダンサー:08年7月 藤蔭静寿さん

(C)藤蔭静寿

 今回の全舞連の舞踊ゼミナールはバレエのキミホ・ハルバート(2007年3月にこのBlogの本企画にインタビューが掲載されている)が出演することでも話題になっているが、日本舞踊の若手でも興味深い才能が出演する。
http://www.kk-video.co.jp/schedule/2008/07-08buyouseminar/index.html
 古典もきちんと学びながら、バレエの前田新奈と「ボレロ」を踊るなど創作でも活動を展開している藤蔭静寿だ。日本舞踊というとどうしても年配の踊り手が踊っているという社会的なイメージがあるが若い優れた才能たちも多い。

 今日の舞踊界は各ジャンルとも専門化が進んでいる。時代的な背景や歴史的経緯が介在するとはいえ、永田龍雄から江口博、蘆原英了、光吉夏弥にいたるまである時代までの洋舞の舞踊批評家たちは日本舞踊について知っていてきちんと論じていた。また今日では逍遥門下唯一の舞踊学者だった小寺融吉のような書き手も少ない。それ以後になるとそれぞれのジャンルが専門化することにより詳細になるのだが、それぞれに敷居が高くなってしまったり、同時代に何が起きているかということもみえなくなってしまうという残念な状態にある。洋舞のオーディエンスは邦舞や邦楽で何が起きているかということも歴史的な流れも含めて良くわからないということにもなってしまっているのだ。今日では現場レベルから邦と洋の相互を熟知している書き手は日本舞踊からはじめ洋舞で活躍した檜健次の下で舞踊を学んだ舞踊批評家たちぐらいでありその世界を継承することが若い書き手たちの課題でもある。
 しかし実演家同士の間では今日でも”新しい舞踊”を新世紀の彼方に向けて育み送り出そうとしている試みは続いている。そこで今回は日本舞踊の期待の若手作家の一人を紹介してみたい。


Q1:日本舞踊とであったきっかけをお教え下さい。


 きっかけは単純でした。母が習っていて、勧められたからです。母は古風でお茶、お花、お箏等も習っていました。
 私はもともと引っ込み思案で人前に出るのが大の苦手でしたが、衣裳をつけて、お化粧をして初めて舞台に出た時…楽しかったです!(小学6年生の時でした)…別人(役)になれる快感でした。


Q2:邦舞・洋舞問わず同時代のダンス、ダンサー・振付家についてどう思いますか?


 私の場合始めたのが遅かったので今は全てがまだまだで見るもの、やるものすべてが新鮮で勉強になります。最近は私だったらこう表現、踊るかな…と考えられるようになりました。


Q3:どなたか面白いと思われる方はいらっしゃいますか?


 日舞に限ってですが…昨年結成した芸○座(http://www.geimaruza.com/index.htm Blog  http://blog.goo.ne.jp/geimaruza)のメンバーです。流派ばらばら、個性ばらばらですがユーモアがあり、自分にはない色を表現するので面白いです。


Q4:ドイツなど海外で踊られたときの反応はいかがですか?


 日本のよりも殆どの人が興味を持って真剣に見てくれました。音楽、衣裳、小道具にもとても興味を持って日本文化にも関心をもってくれてました。言葉は分からなくても表現(振り)を理解して、リズムにのるところは一緒にのってました。


Q5:お母様(藤蔭壽女(藤蔭流))も日本舞踊の踊り手ですね?影響をうけましたか?


 はい。もともとは母からの勧めだったので。この世界のこと。人生の先輩としての生き方、パワーにはいつも驚いています。支えてくれてますし相談にも乗ってくれます。


Q6:東京芸大の邦楽科で学んでいかがでしたか?昨年の「新曲『浦島』」全幕初演などでも頑張っていますね。


 芸大は邦楽科日舞専攻でした。邦楽科は定員33人で日舞は毎年2、3人でしたが私の年は6人もいてみなそれぞれ流派が違いました。家元制度でなかなか他の先生から習うということは難しい世界ですが在学中には他流派の先生にも出会い、学べたことと何より一生付き合える仲間が出来たことがとても大きいです。
 又、三味線、お囃子など必修でしたから踊る上でとても勉強になりました。
最近では芸大らしさとして美術学部音楽学部が一緒になり、作品作りをしています。


Q7:初代藤蔭静枝や花柳寿美、五條珠實らによる新舞踊運動、戦後の創作の名作たちがかつてありましたが、先日の「欲望という名前の列車」やバレエの前田新奈さんとの「ボレロ」、全舞連のスクランブルといった今日の創作についてはどのように考えられますか?


 明治末、坪内逍遥や女性舞踊家によって提起された新舞踊運動は現代の創作の基礎を築き、新しい枠(創作)を作ってくれたと思います。中でも初代藤蔭静枝は洋楽器や無歌詞の舞踊、群舞など今に通じる作品を作ってます。
 時代にあった今の表現の仕方に変えていかなければ、創作舞踊が確立されていかないし、その為にも古典をきちんとふまえ、外の風を感じて創って行くべきだと思います。

参考:今月のダンサー08年1月 前田新奈 インタビュー http://d.hatena.ne.jp/yukihikoyoshida/20080107


Q8:同時代の伝統芸能の若手たちについてはどう思いますか?


 やはり伝統芸能なので代々家柄の方か親の後継が殆どですが、そんな中でも新しいもの、違うジャンルとのコラボレーションを考えたりしています。だからやはり伝統を守り、今の時代に合ってる表現を模索しながら頑張って行きたい。


Q9:若いオーディエンスにどんな風に見てもらいたいとは思いますか?


 日本舞踊の内容は歴史上の人物、事件、画材などが元になってるものが多くあります。今と違った生活週間、生活道具、風景など今と昔の違いが分かるから面白いと思います。


Q10:好きな古典をお教え下さい。


正治郎連獅子」です。
もとは中国の故事から取材したものですが厳しさの中にも愛情があって、とても大好きで、大学の卒業公演で同級生と踊ったのですが、いつか母とやりたいです。


Q11:これからやってみたいことをお教え下さい。


 色々なジャンルの方と一緒にやりたいです。表現の仕方はかわるけど思いや踊りには変わりがないですし。もっともっと古典を深く知って、海外に日本を知ってもらいたいです。日本舞踊を通じて無くなりつつある日本文化を伝えていきたいです。。


プロフィール


藤蔭静寿(ふじかげ・しずひさ)
本名:大島里衣子

幼少より母から手ほどきを受け
平成15年東京芸術大学音楽学部邦楽科卒業
現在藤蔭流家元、藤蔭静枝に師事し、日本舞踊の創造美を探究中。
地元の小学校でも放課後の子供教室で指導

主な活動:
平成13年
ハンガリー公演
平成15年
サンクトペテルブルク建都300年祭記念公演出演
平成18年
NHK伝統和楽団に選ばれる
和楽団の一員としてケベック博覧会出演
独日協会ハノーファー茶道会歓迎パーティーに出演
9月〜
千葉市立磯辺第4小学校で日本舞踊の指導にあたる
平成20年デュッセルドルフでのジャパンデーに参加。出演。

平成18、19年 日本舞踊協会主催 新春舞踊大会 奨励賞
第5回千葉市芸術文化新人賞受賞
平成20年 新春舞踊大会 大会賞*1


今後の予定


7月8日 第29会舞踊ゼミナールグレンミラーを踊る

7月21日 ひさ女の会納涼祭

8月7日 第1会芸○座公演(日本橋公会堂)『藤娘』

8月10日 城南ブロック日本舞踊公演 『四季の花』

写真:(C)藤蔭静寿