眠れる森の美女

松山バレエ団「眠れる森の美女」全幕


 松山バレエ団は久しぶりに「眠れる森の美女」を上演した。今回の舞台で森下洋子はオーロラ姫を第二幕から第三幕へと徐々にテンションを上げながら熱演をみせた。デジレ王子を演じた清水哲太郎のサポートが見事に情景を成立させていたことも見逃せない。特に第三幕のグラン・パ・ド・デゥでは清水が森下の世界と共に充実した世界を作りだしていた。
 この作品は原作がディズニー映画にまでなっている有名な物語だがバレエでもヴァリエーションやパ・ド・デゥのみならずストーリーを楽しむ事ができる作品だ。中でも第一幕の平元久美の快活な演技が見事だ。表情豊かに踊るヴァリエーション(第4ヴァリエーション)はこの幕の中でもひときわ目立った。さらに第三幕でフロリナ王女を描いた鍵田真理子の円熟した演技も充実したものだった。第一幕で良く知られているヴァリエーション(第6ヴァリエーション)や第二幕の公爵夫人を踊った小菅紀子も各幕で活躍を見せ目が離せなかった。松山バレエ団というと戦後の第一次東京バレエ団や帝劇時代は松山樹子だが、私の年代ではすでに子どもの頃からスターだった森下洋子である。どうしても森下と清水のイメージが強いが一定の評価を受けファンも多い平元をはじめ優れたダンサーたちも多いのだ。
 清水哲太郎はヨーロッパ中世に対して独自の解釈と濃密なイマジネーションを持ってるアーティストだが、清水の世界を形にしているのは踊りと一体化するようにトータルに演出・構成を支える舞台美術・演出である。第二幕で登場人物たちが眠りから覚めていくシーン、”目覚めのシーン”、などは非常に解かりやすくまた舞台美術が機能している例だ。そのポピュラーで入りやすい世界は何かと細かい解釈も介在する”バレエ”に対して普段バレエと接したことがないファンでも入れる解かりやすい面白さも持っている。松山樹子らが戦前から戦後にかけて、日劇や第一次東京バレエ団、そして団設立へ活動を経て模索し日本社会に定着させてきた舞台芸術のスタイルがこの団ならではのポピュラーなテイストの背後にあるのだろう。数世代にわたって愛されてきたバレエ団だが、彼らのさらなる近未来への展望が気になるところだ。

Bunkamura オーチャードホール
振付指導:清水哲太郎
出演 森下洋子 清水哲太郎・松山バレエ団総出演