コッペリア

 バレエで創作というといわゆる創作やコンテンポラリーダンスというニュアンスも少なくない昨今だが、”物語バレエ”というジャンルを追求しているグループがある。それがこのバレエ シャンブルウェストだ。物語バレエというと中にはマクミランやクランコによる物語バレエ作品、日本でもこのジャンルを探求しているアーティストは少なくない。コンテンポラリーダンスのファンも少しづつでも慣れ親しんでいくとそれぞれのバックグラウンドも充実してくるはずだ。私はこのグループの作品では「タチヤーナ」や「ブランカ」を見たことがある。そんな彼らがロマンティックバレエの名作「コッペリア」を上演した。
 このバレエ団は涼しげな夏の八ヶ岳いう恵まれた環境の中で上演される清里フィールドバレエ(http://www.moeginomura.co.jp/FB/)での活動も注目されている。屋外でバレエを楽しむいい機会といえるだろう。



川口ゆり子・平成18年度紫綬褒章受章祝賀公演
バレエ シャンブルウエスト Coppelia 全幕

 今回のバレエ シャンブルウェストは「コッペリア」を上演した。過去に数回この演目を上演しているが今回は生演奏ではない。演出は今村博明、川口ゆり子によるいわば今村・川口版である。プーシキンの「エヴゲーニー・オネーギン」をモチーフにした「タチヤーナ」、氷の女王と冬世界を描いた「ブランカ」とそれぞれバレエ化して物語バレエとして上演しているバレエ団だがこの古典作品を的確にまとめてみせた。スワニルダを踊ったのは川口ゆり子、フランツは逸見智彦である。特に二幕でコッペリアになりきった川口の機知を感じさせるコミカルな演技、対する逸見の初々しい若い男の魅力が印象的だ。全体を通じて熟年の川口の踊りの味わい深さを引き出すことを考えるならば舞台美術や衣裳を通じた独特な演出もあってもいいかもしれない。踊り手の感性と美意識を濃密に打ちだしたトーンの確立が意義を持つ。
 ダンサーとして公演を通じて優れた演技を見せていたのは深沢祥子だ。特に三幕のお祭りの中で祈りの踊りを情感豊かに丁寧に踊りきった姿が印象的だった。深沢のこれからの活躍に期待したい。この2月に横井茂の舞踊活動60周年記念公演で下村由理恵らと踊る姿が印象的だった吉本真由美もこの団で活躍する優れたバレリーナである。一幕、二幕とスワニルダの女友達の一人として愛らしい表情を披露していたかと思えば、フレッシュな表情で魅せた田中麻衣子、正木亮羽、そして伊藤達哉らと踊る第三幕の戦いの踊りでは表情豊かに円熟した演技をみせていた。加えて松村里沙の明るい表情が活きた三幕の夜明けも大きな見所だった。ピュアで情感豊かな踊りを得意とするダンサーが多いバレエ団だが、そんな持ち味の活きた一幕と三幕の民族舞踊も見逃せない。
 このような古典作品で確かな表現力を感じさせる団であるため物語バレエの方の新作も楽しみだ。創作では彼らの得意とする表現やイマジネーションを活かせる台本や振付世界が重要であるように思う。例えばこの古典作品に溢れる彼らの活き活きとした表情を現代日本人のリアリティとチューニングする形で作中にどれだけ打ちだすことができるかということが大きな焦点になると思う。現代的なイマジネーションともいえる「ブランカ」でその地平をうっすらと垣間見せていたことを考えるならば物語バレエと取り組みながらも古典とも向かい合う彼らの姿勢は意義を持つように思う。
(いちょうホール 大ホール)
主演/ 川口ゆり子、逸見智彦
芸術監督/ 今村博明
作 曲/ レオ・ドリーブ
演出・振付/ 今村博明、川口ゆり子
美 術/ ヴァチェスラフ・オークネフ
音 響/ 矢野幸正
照 明/ 後藤武
衣裳制作/ 大井昌子
舞台監督/ 森岡
バレエミストレス/ 姫野眞美、東松由香里
ステージクラフト/ 金子光寿(NHKアート)

■今日の舞踊界


札幌では瀬島五月、米沢麻佑子、渡部倫子らが共演したダンスパフォーマンス「櫻の園」(音楽:Dai)が行われたようだ。