文化の土壌

 ある邦楽(邦舞ではない)の関係者が私に語っていたのだが、そもそも邦楽は批評が少ないから、文化の土壌は批評がそのジャンルにあることで生まれるということだった。それはある意味で正しいと思う。舞踊は文芸や音楽ほどまだ土壌が整っていないのだが上手く整備していくことが重要である。戦後世代というのは文芸にしろ音楽にしろ、そして舞踊にしろ、出版メディアの媒体数が増えて、読者も高度経済成長と共に伸びていくという時代だった。
 現代のダンスライターの現場は多メディア時代である。私個人であってもこれまでの仕事の幅も原稿用紙を用いるようなテクストメディアからヴァーチャル空間でのテクストまでその射程は多用だ。自分があたかも知っているように思い込んでいる戦後の記憶が次第に体験知から消えていく。むしろ2000年代の生活のほうが、新しい生活の市場原理と共に受肉をしていく。