東京のクリスマスイブ

 石井漠が生まれ育ったあの秋田の森岳(http://d.hatena.ne.jp/yukihikoyoshida/20071223)で体験した広大な草原や田畑、透き通るような青空、夜空に浮かんでいた北国の満月の記憶が身体の中に濃密に残っている。漠先生が他界をされて半世紀強、今尚自然は当時を彷彿とさせるようにその土地と風土を私に物語っていた。とはいえ、再び巨大な人工空間といえる東京の煩雑な日常に身を埋めるようにクリスマスの取材ラッシュに再突入する。

 そろそろ年の瀬も近くなろうとしているこのシーズンは都市空間では多くのダンスが上演され、消費され、市民に伝達・受容をされていく。舞踊関係者の間でも忘年会やクリスマスパーティーが行われるらしい。かつて楽壇やレコード会社や出版関係者といった人たちと舞踊関係者たちは暖かい場を持つことは多かったようだ。東京の舞踊界はクリスマスシーズン、そして一年間を回顧する時期に入ってきた。


 今年のクリスマスイブのくるみ割り人形は東京シティ・バレエ団だ。関係者によるとこれまで育ててきた若手たちがキャストに入る日ということもあり気になってきた。志賀育恵の活躍は話題をまいたが、橘るみも加わり興味深い存在になってきた。現代舞踊の代表的な踊り手としては私は同年代では菊地尚子、矢作聡子、冴子、ちょっと上のベテランであれば内田香を断然推したいが、日程が重なると現代舞踊を優先するのでその全てをチェックできないとはいえ東京圏のバレエで実際に見たことがある踊り手たちの中では橘るみや志賀が古典を踊る姿は印象的であり強く支持したい。彼女たちの中にある古典性も諸ジャンル同様に90年代とは若干異なるように感じるように思えるためとても興味深く想っている。そして牧や松山、東京バレエ団、そしてKバレエや新国立劇場バレエ団へといった一連の潮流を踏まえながら近未来のこの国のバレエがどのように展開していくのかということはその全てをバレエ専門の歴戦の名士・名批評家たちのように追うことができないとはいえ、モダン&バレエの私の立場から暖かく見守っていきたく思うのだ。


東京シティ・バレエ団 第22回「くるみ割り人形

Blogにてレビュー

(てぃあら江東 大ホール)
クララ:坂本麻実
くるみ割り人形:春野雅彦
金平糖の女王:信田洋子
コクリューシュ王子:キムボヨン
ドロッセルマイヤー:青田しげる
ねずみの王様:堤淳