データと舞踊評

 3カ月おきぐらいにMy Bestをブログに書いてみることにしようと思ったのだが、4月から6月までの間では共に5月なのだが菊地尚子と内田香の作品が極めて印象深かった。東京新聞のコンクールでは鈴木麻依子の飛躍的な伸びや所夏海の完成をされたエレガンスには大きく驚かされた。作品の仕上がりとしては前沢・乾や小林泉、そして宮川かざみだった。個人としては吉垣恵美、塙琴、青木教和だろう。

 とはいえその傍らでデータをアップすることについて考えていたのは、この手のデータの主観性と客観性である。3月の前田のごく短い踊りのパーツも、菊地・内田の両作品も、いわばマイ・チョイスなのだ。しかしマイ・チョイスと違う芸能賞の受賞データのようなパブリックなデータになるようなものもある。この辺りのバランスは非常に難しい。
 蘆原英了や市川雅はいわばマイ・チョイス型の批評家だ。この手の批評は自分がいいと思った対象をぐいぐい取り上げて分析していくある一方で、蘆原がアルヘンチーナの公演をずっと追っかけたように、良しにしろ悪しきにしろある種の偏向を生んでしまうのも事実なのだ。現在のオーディエンスの黒沢美香は全部見るけど他はあまり見ないという傾向もこの延長にくるだろう。
 一方、光吉夏弥のように客観的にデータを生み出すデータ型の批評家もいる。光吉の場合、年間Best5と仮にいうと、いわゆる公式のものとしても通用する部類のデータなのだ。

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 私の評はその初期はもろにマイチョイス型といっても過言ではなかった。そこには対象に対する熱狂がある。ある戦後を代表する振付家は私のことをそれで向こうから覚えていてくれた。後に、ある媒体での修行を経て、データ型のクールさとエレガンスを学んだ。そして今では文脈とクライアントごとにプレタポルテのように使い分けている。

 3月に前田がいいといったのは明らかにマイチョイスである。データで言えば山中ひさのの野村真弓とのデュエット、佐々木由美、海保文江といったところだろうか。国内組はファンタスティックな山中、新境地開拓の佐々木、そしてベテラン海保の大きな一歩といったところだろうか。しかし6月までのデータでいうと、菊地と内田の作品は誰がどうみても一般的なデータといいえるものだ。一方、コンクールはデータから言うと一位は上原かつひろで、この作品は1位にふさわしいものだが、マイチョイスからすると、予選から見ていくつかプッシュしたい作品の中に鈴木や所、そして欠かすことができない前沢・乾の作品があった。

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 この7月に埼玉全国舞踊コンクールの決戦を見ていたのだが、荒木まなみは予選を全部見れなかったとはいえ、昨年の上原かつひろの作品同様に初見でこの作品がおそらく1位だろうと予選の段階から確信を持って解った。荒木については近いうちにまた書こう。
 一方マイチョイスとしては竹中優花の「あげひばり」を予選の段階から強烈に覚えていた。竹中はモダン=コンテンポラリーのオーディエンスは殆ど知らないだろうが、今年の神戸のコンクールで所夏海が1位になっているときに入賞者に入っている。貞松・浜田バレエ団の踊り手で関西にいつもいるため東京ではあまりみることができない。バレエの若手作家のコンテンポラリーダンスを踊ると、現代舞踊の若手作家より身体表現のトーンが明るい仕上がりになることが多いのだが、モダン=コンテンポラリーの若手作家たちの中で踊ったその結果には注目をしていた。池田美佳、蛯子奈緒美、皆川まゆむ、横田佳奈子、そして荒木や所と比べてみてみても極めて興味深い作家だ。
竹中の演技は下からアクセスできる。
http://www.kk-video.co.jp/concours/nba2004/senior.html
http://www.kk-video.co.jp/concours/nba2006/contemporary.html
 大成をして欲しい踊り手の一人である。

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 もちろんマイチョイスとデータが重なることもある。この7月のオリガ・サファイア振付の「カルメン」はおそらく私がこれから仕事をしていくなかで決して忘れることができない「カルメン」だ。

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データと向かい合う夏の夜である。