橋浦勇

その昔、小牧バレエ団でパ・ド・トロワなどを踊っていたこともある橋浦勇の舞踊生活55周年を祝う公演が行われた。

第8回グループアラベスクバレエ公演

 橋浦勇の強烈な個性とユーモアが舞台いっぱいに繰り広げられた。
 冒頭の「Ma Vie」は現代作家の沼口賢一によるシリアスな作品だ。沼口は芙二三枝子をはじめ様々なベテラン作家の作品でも客演をしている。フランスから帰国し踊りがさらに磨かれてきた。人によって異なる時間感覚の差を描いた作品だ。舞台の上には大きな台が組まれて、白一色の空間が演出されている。指揮者のようにタクトを振り続ける男が台の上に現れると、指揮棒を振り続ける。その下で踊り手たちが身をゆらすように動き、次第にリズムをムーブメントに起こすように踊っていく。玉利智祐が切り出す肉体の表情は見事だ。繊細な旋律を繰り返す音楽、エスニックな音楽と楽曲と共に場面構成や踊りが変わっていくのだが、モノトーンなタッチから次第に揺れる肉体を通じて人によって時の流れを浮き彫りにしようとする作家の意図が見えてくる。近年、立体的な空間を使う作品は少ないが、そんな中で珍しい作風といえる。ただし同じ場所で指揮者が延々と指揮をし続けるといった下りからはシンプルさが裏目にでてしまうのも事実で、照明を通じた演出や場面構成から作品の持つ立体感をより強く打ち出すことが重要であるようにも感じた。
 続く作品はいずれもコミカルな内容だ。「あレ・シルフィード」は喘息持ちの青年(佐藤一哉)が森をさまよい、清らな空気の精と汚れた空気の精と繰り広げる物語だ。佐藤のコミカルな持ち味が見事に発揮され、ある意味で若松美黄にも通じるとぼけたユーモラスな世界が展開する。続く「西班牙の秘宝」では月子(橋浦勇)と冴子(五條雅之助)がパリで貞奴のようにジャポネスクな踊りを繰り広げる。舞台にはパリ中の有象無象が現れレビューを繰り広げる。現代舞踊の佐藤にも通じる、とぼけたユーモラスな世界だ。やがて月子と冴子は秘宝と恋を追って西班牙へ。
 ダンサーたちが舞台をゴージャスに遊び心と共に盛り上げるてくれるのはコンテンポラリーダンスの広崎うらんや深見章代、現代舞踊の佐藤や若松ぐらいだ。いい意味で『デタラメ』な良さがある明るい会だった。音楽、文学、美術と様々なジャンルがある中で、この手のデタラメさやいかがわしさがあるのもダンスの大きな魅力の1つだ。

きゅりあん 品川区総合区民会館 大ホール)