今月のダンサー:07年5月  菊地尚子さん

(C) 705 Moving Co.

 昨年秋に菊地尚子さんの主催する705 Moving Co.の公演を見ることが出来た。 http://www.nanamarugo.net/ (掲載記事:CORPUS Vol.2「コンテンポラリーダンス再考」収録『705』)「自分マニア―ポエティックな箱庭」(写真)と題された作品では、作家が大中劇場などで他の作家の作品に客演したときに見せるスタイルとは一味違う等身大のコンテンポラリーダンスを見せていた。ちなみに菊地さんはNY時代にヴィレッジ・ヴォイス紙で大きく取り上げられるなど優れた成果をだしている。(ex. Village Voice: "September Songs" by Deborah Jowitt http://www.villagevoice.com/dance/0537,webjowitt,67734,14.html ; NYTimes: "DANCE REVIEW; Cherishing Outsiders With a Smile And a Shrug Print Save Share DiggFacebookNewsvinePermalink" by JENNIFER DUNNING http://query.nytimes.com/gst/fullpage.html?res=9B0CE2D8103BF93AA25757C0A9629C8B63
私はNYにいらっしゃる前と戻ってきた後で作風が変化したことに大きな関心を持った。
さらに菊地さんはこの6月にはシンガポールで開催される国際ダンス会議(WORLD DANCE ALLIANCE (SINGAPORE) CONFERENCE, ASIA-PACIFIC DANCE BRIDGE - EXPLORING PARTNERSHIP, FROM JUNE 7-10, 2007 )で作品が選考を通過しショーケースで踊られるという。
そこで近作と作風の変化を中心に近況などいろいろなお話を伺ってみた。

Q1. 昨年秋に、「自分マニア」という作品を見せていただいたのですが、丁度、豊かで社会に情報がふんだんに行き届いているこの社会を反映するように、等身大で自分の部屋のような空間を見せてくれるような印象を持ちました。最近の創作や活動からお話頂けると嬉しいです。

A. 自分の今までのダンスにはいくつか段階があったのですが、コンクールに参加していた時代が終了し、改めて自分が進みたい方向性を考えた時、 「自分にしかない体で自分にしかない感覚の世界を、死ぬまでにいくつ創れるか」 という思いで、「自分マニア」というソロシリーズを始めました。作品性に一貫したものはなく、ただその時その時自分の創りたいものを創れたらそれはもう「自分マニア」と名付けています。「自分マニア」は在外派遣員としてNYに3年間滞在中も発表することが出来ました。
 帰国後は、昨年の9月に埼玉県ふじみ野市に705 STUDIO を構えまして、ほとんどそのスタジオを拠点に活動しています。
  自分のイメージした空間をあまり身構えずに現実化する術として、スタジオでのパフォーマンス公演を「705 CIRCUS」と名付けてプライべート公演を始めました。あまり気負うことなく、年に1つでもいいので形にできたらと思っています。


Q2. 在外研修で滞在されたNYCではどのようなことをなさっていたのですか?

A. いろいろなカンパニーとお仕事させていただきました。
人種の違う人が多い場所なので、様々なスタイルのカンパニーと関われたのが自分の良い経験になりました。ダンサーとして一番充実した日々が送れていたと思っています。
 また振付家としても3作品ほど発表し、DTWやJoyceSoHoなどで上演しました。
 あとは、自分の中で習得したい体の使い方がハッキリしていたので、これは!と思うクラスをピックアップし、集中して受けていました。 と思いきや、全くクラスをとらない時期もあり、その間はアパートに籠りきって映像作りにハマっていました。
その映像のひとつは前回の「自分マニア」でようやく使用できたので大変嬉しかったです。

しかし思い出すにやはり大方リハーサルしてましたね。忙しかったです。


Q3. 705 Moving Co.というカンパニーはNYC時代に立ち上がったようですがその辺りのことをお話くださると嬉しいです。

A. NYに行く前まで、群舞を創ることの大変さに辟易していたのが正直なところで、ダンサーのスケジュールの調整や、リハーサル場所の確保、人と関わることの大変さなど、私には合わないと思い込んでしまって、ソロ作品を創ることに集中していましたが、NYで様々なカンパニーの作品に出て刺激を受けたせいでしょうか。
苦労してでも群舞でしかできない作品の良さをやりたいっと思えるようになりました。
 そして1作品発表した際にグループ名を「705 Moving Co.」と名付けました。
 今その時のメンバーの1人が帰国して、また仲間になってくれていたりで、本当にやってよかったなと感じています。

 人と関わることに恐れていてはいけないというのが、ここ近年の自分の課題です。


Q4. 帰国後、芸風が変わったとおっしゃっていましたが何かきっかけはあったのでしょうか?菊地さんといえばコンクール時代の作品のイメージがありましたが、「人間味あふれる」作風を追求されるようになりましたね。

A. 芸風が変わったのはNYでですね。

 まず、動き方が変わりました。それは大きいと思います。興味がある動き方は、体の抜け感と、体のコネクト、重力をうまく使ったリバウンドでそれらを意識しながら振りを考え、踊っています。

あとは、作品性が変わりました。昔はもっとストイックに作品を創っていましたが、今は肝心なところがちゃんと押さえてあれば、いかに遊べるかという感覚になってきてまして、結果的にあまりかしこまった作品ではなく、ラフな感じのものが多いと思います。

 ダンサー達も、技術の高さや、外見の素敵さも必要かもしれませんが、それよりも各自特徴的な魅力があるかどうかが私の作品には肝心です。おデブちゃんでも、ちびっ子でも、無骨でも、こよなく愛せるべきキャラクターならオーライです。

 また踊ってもらう際、楽しんでもらわないと嫌なので、意見を言ってもらったりもします。

 そのような人たちで作る空間は、超人的でもなく、「すごいっ!、素敵っっ!」という感想でないかもしれませんが、何か伝わるものがあると信じています。

 そのように、ものの考え方全般的に変化したのではないかなと自分では感じています。


Q5. 705 Moving Coに集う優れた若手の面々とどんな活動をしてみたいですか?

A. 自分の作品にも出てほしいのですが、ディレクション的なこともしたいです。作品の構成やら音の編集を考えるのが好きなので、若い人たちの作品作りの手助けに少しでも役に立てればといいな〜と。


Q6. Q1やQ5とも重なってきますが、これから近い将来にやってみたいことなどお話いただけると嬉しいです。

A. 来年あたりにホールを借り、近年創った作品を総まとめとして、何日間か本公演「705 Carnival」がやりたいです。

それ以外には、ホールに限らない、様々な場所でのパフォーマンスに興味があるので、そのような機会が増えるといいなと思ってます。


Q7. 6月にはシンガポールで踊られるそうですが、アジアのオーディエンスに期待したいことはありますか?

A. ぬけ感でありつつも、すごいスピードでめちゃくちゃ踊るソロ作品をやりますが、その作品の中に自分の込めたメッセージを感じて少しでも幸せな気持ちになってもらえたらラッキーです。


菊地尚子 プロフィール

4才より踊り始める。2001年、現代舞踊協会新人賞、2002年東京新聞主催全国舞踊コンクール第1位・文部科学大臣奨励賞を受賞。2003年より文化庁芸術家在外派遣員として約3年間渡米(NY)。
Larry Keigwin+Company、Nathan Trice/RITUALS、映像音楽ダンスのコラボレーションカンパニーMUXなど、NYで活躍するカンパニーとダンサーとして仕事をしながら振付家としても活動。渡米前より開始したソロシリーズ「自分マニア」もDTW、Joyce Soho、Joe's pubで発表。
Village Voiceやその他のレヴューでも取り上げられ好評を得る。しかし自分の作品を腰を据えてじっくり作りたいとの気持ちが募り、NYで立ち上げた「705 Moving Co.」を始動するべく、2005
年10月に帰国。アイデアを現実化しやすいようにと705Studioを構え、プライベート・パフォーマンス「705 Circus」を展開。また、1997年より主宰しているダンススクール「705 Dance Lab」も継続しながら、後進の指導にも力を注いでいる。
HP: http://www.nanamarugo.net/

今後の予定

5月18日 「ダンス創世紀」公演にて2作品上演。「Systematic
Nonsense -705 world」「Cell -細胞・電池・小部屋-」
 
5月26日  BOAT PEOPLE Associationの所有するボートにて、即興パフォーマンス。

6月6〜9日 シンガポールにてソロ作品「自分マニアLv.6 - Clover-」を上演。

11月24日 705 Dance Lab 10周年発表会 秋      
プライベートパフォ−マンス「705 Circus '07」を705 Studio にて上演。