小樽

朝早く起き、地料理で朝食を取り、札幌駅に向かう。初めてこの札幌駅に降り立ったときはある舞踊批評家の大先輩と一緒だった。彼との思い出が頭をめぐる。銀河の星の美しさをデザインした札幌駅の時計、星の大時計(デザイン:五十嵐威暢 http://www.igarashistudio.com/jp/profile.html )、は今日も朝日の中で輝いていた。汽車の窓の外には北海道の原野が広がる。この原野で大野一雄や五井輝、そして能藤玲子はパフォーマンスをしたのだろう。戦後の江口・宮舞踊団は北海道を巡業した時期があるし、もうなくなってしまうのだが現代舞踊協会の地域巡業公演で、北海道をツアーしたという話を数年前に耳にしたことがある。旅を重ねながら公演活動をするというのは大変だろうが面白い出来事もあるのだろう。写真家の星野道夫の世界を思い出させる原野だ。車中でラバンを読んでいると風景が原野から一転し海と水平線が目の前に広がり圧倒される。北国の海が目の前に広がる。遠く海鳥が飛んでいる。釣り人の為の海の家がポツリポツリと目立つ。北の海である。
札幌から1時間ぐらいの位置にある小樽に着く。その舞踊批評家の大先輩から是非行くようにというアドバイスがあったので立ち寄ったわけだが駅前から港まで道が開けている印象的な都市だった。北一ガラスというガラス関係の企業があちこちに店舗を出しているのだがこの会社がやっている北一ホールというところで食事をする。http://vyb7000.hp.infoseek.co.jp/homepagehokkai/jy10_004.htm http://www.kitaichiglass.co.jp/kakuten/foodmenu/kitaichihall.html http://itp.ne.jp/contents/hokkaido/otaru/o_spot36.html 偶然立ち寄ったのだが、安いし雰囲気は抜群だしでお勧めだ。うっすらと暗いホールなのだが、石油ランプでライトアップされており、幻想的な空間である。ピアノの生演奏もよく行われているそうだが、踊りにも向いていると思ったりもする。

このエリアは海産物以外では和菓子、オルゴールやガラスなどの専門店が多い。あちこち見てまわったのだが市立小樽美術館と市立小樽文学館に立ち寄る。この小樽文学館というのは市民に対して開かれた優れた場だ。様々な資料と一緒に市民の為のオープンスペースがある。様々な文学者がこの街にいたようだ。新聞、小樽商報の記者だった時代もある石川啄木、「蟹工船」の小林多喜二伊藤整小熊秀雄など展示をされている資料を見ているだけでその多様さに驚かされる。プロレタリア文学社会主義共産主義、労働者問題といった当時の文化・社会運動とも重なった歴史もあるようで、フロンティアの理想と現実が交差をしているような街だ。たまたまなのだが、俳人で版画作家としても活動をしている一原有徳 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%80%E5%8E%9F%E6%9C%89%E5%BE%B3 の展覧会が美術館で開かれていた。文学と美術をクロスオーヴァーしたような作家がいたというのも面白い。
この街は建築が実にいい。街中では戦前に「北のウォール街」といわれた金融系の建築群が残っている。どういう経緯か東京駅などの設計で知られている辰野金吾設計の日本銀行の支店まである。北海道開発の拠点の1つが小樽だったようなのだが、開発の背景には銀行の活躍があるようで、当時の政治経済、政策の流れを感じ取ることができる。銀行のほかにも近代の建築空間が残っていてカフェなどとして営業をしているため雰囲気がある街だ。石川や伊藤が通い同人誌の為に使ったカフェなどもあったようで、カフェ文化と当時の文芸やアートが関係があるようだ。

東京都知事選挙で東京は盛り上がっていたが、丁度この日が北海道の知事選挙の日でもあった。

北海道では地域のカラーを大切にした食材がよく売られている。売店で白樺の樹液が売られていたので試しに飲んでみたら少し甘いミネラルウォーターのような味がした。日本酒の銘柄には「熊殺し」とかあってなかなか面白かった。

夕方の飛行機で東京に戻った。帰ったらテレビで戦艦大和の最後を描いた映画をやっていた。